▼ 特別記事 「エネルギー問題とバイオマス」[3/4]

ビジネス情報誌 東京商工リサーチ発行
「TSR情報[B's]2005新春特集号」掲載

特別記事
「エネルギー問題とバイオマス」

地球の自然環境の中で繰り返し得られるエネルギー「バイオマス」。各国から注目されるこの「再生可能エネルギー」を、現状・将来性・利活用などさまざまな角度から探ります。 [PDF版248kbyte]

「バイオマス」の利活用

「バイオマス」は一般に,含水系,乾燥系とそれ以外に分類されており,それぞれの特定に応じた利活用方法が提案されています.これらの利活用方法としては,「マテリアル利用」と「エネルギー利用」に大別されます.この中の「マテリアル利用」の具体例を以下に示します.

  1. 飼料化,たい肥化
  2. ボード化による再生利用
  3. 炭化による再生利用

「飼料化」の例としては,残飯のような家庭生ごみ等をそのまま,ペットや家畜の餌として活用する方法があります.しかし,実際には最近のペットの食事は人間以上に贅沢ですし,家畜の餌として用いると言っても,様々な衛生管理上の課題もあり容易ではありません.しかし,素材として活用できる点から,理想的な利用法とも言えます.北海道札幌市や山形県鶴岡市等に導入例があります.

「たい肥化」は,「コンポスト」化とも呼ばれ,家庭用生ごみ処理等への導入も進められ,馴染みのある方法です.しかし,大量に処理する際には,たい肥化された肥料の用途確保も不可欠であり,決して万能な方法ではありません.

2002年7月30日には経済産業省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省が共同で、バイオマスの総合的な利活用(動植物、微生物、有機性廃棄物からエネルギー源や生分解素材、飼肥料等の製品を得ること)に関する戦略(「バイオマス・ニッポン総合戦略」)を策定し,2002年12月に閣議決定されました.

「ボード化」は,その名が示すように廃木材を粉体等として,それを加圧成型して種々の複合材としての「ボード」を製造する方法です.木材の特性をそのまま生かす用途として有望と考えることができます.

「炭化」は,バイオマスを酸素のほとんどない状態で熱分解,すなわち蒸し焼きすることで「炭」を製造する方法です.もちろん,得られる「炭」は材料により異なりますので,用途は素材に応じて検討する必要がありますが,脱臭剤,ろ過材,土壌改良材としての応用も期待されます.富山県富山市や鹿児島県屋久町に導入例があります.

「マテリアル利用」は,「バイオマス」をできるだけ,素材としての特性を生かして活用しようとする方法でした.しかし,「素材」としてそのまま利用できない場合,「エネルギー源」として活用する「エネルギー利用」を行うことになります.先述の「炭化」の場合でも燃料用「炭」として活用する場合には,この「エネルギー利用」のための変換ということになります.

さて,「エネルギー」としての利活用ですが,これも決して単純ではありません.素材となる「バイオマス」の特性により,適用される方法も様々です.特に,対象物の生物化学変換性と,対象物に含まれる水分量が利用法と大きく関連します.

「エネルギー利用」の方法は種々の視点から捉えることができるため,分類するのも容易ではありませんが,あえて分類すると,焼却処理等として最も身近な「燃焼」,微生物発酵という「生物化学的」反応を利用するメタン化やエタノール化,「熱化学的」反応を利用するガス化やエステル化があります.これらの技術の詳細は,バイオマス関連の書籍やインターネット検索で多くの情報を入手することができます.ここでは,一例として燃焼,メタン化,エタノール化,ガス化,エステル化について簡単に紹介します.

「燃焼」は,燃料として用いる「バイオマス」の直接燃焼,混焼,固体燃料化等に分類できます.いずれの方法でも,「エネルギー利用」としては,「燃焼」処理を行った際に生じた熱を直接利用したり,この熱を用いてボイラーで蒸気を発生させ,蒸気タービンで電気を得たりします.酸素共存下での熱化学反応であることや,エネルギー効率面での制約が課題となりますが,技術的に実証された方法であり,積極的な活用が期待されています.秋田県能代市,宮城県石巻市,岩手県葛巻町に木質系燃料を用いた導入例があります.

「メタン化」は,バイオマスから,燃料となるメタンガス(CH4)を取り出す技術の一つで,嫌気性菌によるメタン発酵を利用した「含水率」の高いバイオマスに対する処理法と位置づけることができます.最近は,「バイオガス化」という名称で呼ばれています.「嫌気性」発酵というのは,その名のごとく空気のあまりない条件下で行う「発酵」です.具体的には「湿式」や「乾式」等の種々の方法が提案されています.北海道滝川市,宮城県白石市,新潟県上越市や津川市等に主に生ごみを対象とした「メタン化」導入例が,また北海道別海市,京都府八木町に家畜糞尿を対象とした「メタン化」導入例があります.

「エタノール化」としては,バイオマスを原料とする燃料用アルコール(バイオマスエタノール)の製造があります.バイオマスエタノール製造は海外ではアメリカ,ブラジルで実用化されていますが,今のところ国内ではあまり注目されていません.食料用の農作物でさえ自給が十分ではない状況で燃料用の植物を栽培することは無理との観念が根強いのかもしれません.実際,燃料用アルコールの利用は広い国土を有し、大規模な植物栽培が可能であるアメリカ,ブラジルでさえ,コスト面では不利なため税制優遇など政策措置が取られています.日本でも燃料用アルコールを実用化することになった場合には,広範囲な政策的支援が不可欠なようです.

ところで,バイオマスエタノール原料としてはブラジルではサトウキビ,アメリカではトウモロコシデンプンが利用されています.アメリカの場合,これらの大部分はE10燃料(エタノール10%/ガソリン90%混合燃料)として一般自動車用燃料として使用されています.一方,よりエタノール含有量が高いE85燃料(エタノール85%)が使用できるのがFFV(Flexible-Fuel-Vehicle)と呼ばれている自動車で,ガソリンやエタノール等の種々の燃料に対応できる車と位置づけることができます.アメリカにおけるFFV車の普及台数は2000年で75万台程度です.ちなみにE10は一般車で利用できますが,E85を利用するためにはエンジン仕様の変更が必要となっています.アメリカではこの費用(1台あたり300$/台)はメーカーで吸収され一般車価格で購入できるようです.

次に,最近注目されている技術として「ガス化」について考えてみたいと思います.「バクテリア」ではなく「熱化学反応」を利用した「ガス化」は,木質系廃棄物等を対象とした「燃焼」処理の代替技術と位置づけることができます.無酸素あるいは低酸素濃度条件で「バイオマス」を熱分解し,メタン,水素,一酸化炭素等を生成させ,これらをガスエンジンに導入し,直接発電を行う技術です.酸素濃度の非常に低い条件での熱分解反応が中心であるため,ダイオキシン生成を回避できることや,ガス化生成物を直接エンジン内で燃料させることで,既存バイオマス発電の中心技術である「燃焼」と「ボイラー」を組合せた既存技術と比較してエネルギー効率面で有利,等の利点があります.ヨーロッパでは,原則として廃棄物「焼却(燃焼)処理」が困難な状況にあることから「ガス化」技術が徐々に活用され始めています.日本でも国産技術の開発が行われるとともに,海外技術の導入等が行われており,今後,これらの技術を用いたプラントが国内に建設されることが期待されます.

また,「ガス化」により得られた「メタン」を改質することで「水素」を製造することも可能であり,将来の「新エネルギー媒体」である「水素」供給技術として期待できます.ここで,「水素」を「新エネルギー媒体」と呼んだのは,太陽エネルギー等の再生可能エネルギーを用いて直接「水」からの水素製造が可能となれば「新エネルギー源」と呼べますが,化石燃料を原料あるいは変換エネルギーに用いて製造した水素は「新エネルギー源」ではなく,既存エネルギー資源の「転換」による「新エネルギー媒体」としての新しい「エネルギー貯蔵」様式と捉える必要があると考えます.ちなみに再生可能なエネルギー資源である「バイオマス」を原料として製造した「水素」は,「新エネルギー媒体」であるとともに「新エネルギー源」と捉えることができると考えます.

「エステル化」としては,バイオディーゼル燃料(BDF)の製造があります.「エステル化」はあまり馴染みのない用語ですが,原料となる油脂にアルコール等を混ぜて反応させ,粘性や引火点の低い物質(エステル)を得て,ディーゼルエンジン用の軽油代替燃料として活用しようという手法です.ちなみにディーゼルエンジンは,吸入行程でシリンダー内に空気を吸入し,高温・高圧に圧縮してノズルから燃料を噴射し,自己着火によって爆発させるタイプのエンジンで,ガソリンエンジンのようなプラグによる点火は必要ありません.BDFは,石油から製造する通常のディーゼル燃料(軽油)とは異なり,バイオ原料を用いた再生可能な燃料です.原料としては植物性あるいは動物性油脂を用いることができ,廃食用油等を原料とすることで,これらの廃油による環境汚染も抑制できることも期待されています.また,BDFは石油起源ではないため,硫黄分を含まず,排出されるガスは硫黄酸化物(SOX)を伴うことがなく,また浮遊粒子状物質の排出も低減できます.滋賀県愛東市や京都府京都市に廃食用油BDF実証プラントの導入例があります.


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