▼ 特別記事 「エネルギー問題とバイオマス」[2/4]

ビジネス情報誌 東京商工リサーチ発行
「TSR情報[B's]2005新春特集号」掲載

特別記事
「エネルギー問題とバイオマス」

地球の自然環境の中で繰り返し得られるエネルギー「バイオマス」。各国から注目されるこの「再生可能エネルギー」を、現状・将来性・利活用などさまざまな角度から探ります。 [PDF版248kbyte]

「バイオマス」って何?

「バイオマス」って何?という疑問が沸きます.「バイオ」+「マス」だから,何となく「生物」+「大量」,というような感じがします.ちなみに,改正「新エネ法」では,「バイオマス」を「動植物に由来する有機物であってエネルギー源として利用することができるもの(原油,石油ガス,可燃性天然ガス及び石炭並びにこれらから製造される製品を除く.)」と定義しています.

「バイオマス」は,太陽,風力,水力などとともに,地球の自然環境の中で繰り返し得られるエネルギーであり,「再生可能エネルギー」の一つです.特に自然界で炭素を循環できる点は魅力的です.植物は光合成を行うために二酸化炭素(CO2)を吸収します.逆に,植物からエネルギーを取り出す過程でCO2が排出されます.排出される炭素の源は大気中にあったCO2が植物に固定化されたものと考えると,燃焼させた分だけ再度,植物を育成すれば大気中に排出されるCO2量は増加しないことになります.この性質を「カーボンニュートラル(「CO2量の増減には中立」の意味)」と呼んでいます.このため,京都議定書で定められた先進各国の温室効果ガス削減目標上も、バイオマス由来のCO2は排出量としてカウントされません。

このような特性をもつ「バイオマス」の将来性から,日本政府は、2002年6月25日に閣議決定した「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」に、「バイオマス」の利活用を推進する計画を盛り込みました。そして、「化石資源使い捨てニッポン」から脱却し、持続可能な循環型社会「バイオマス・ニッポン」への転身をビジョンとして明確にしました。

2002年7月30日には経済産業省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、環境省が共同で、バイオマスの総合的な利活用(動植物、微生物、有機性廃棄物からエネルギー源や生分解素材、飼肥料等の製品を得ること)に関する戦略(「バイオマス・ニッポン総合戦略」)を策定し,2002年12月に閣議決定されました.

このような国レベルでの総合戦略を踏まえて,各省や各自治体を中心に様々なプロジェクトが立ち上がっています.これらの今後の展開を期待している訳ですが,ここで,改めて何故今頃になってバイオマスなのか,という問題の原点について考えておく必要があります.そこで,具体的な国内における「バイオマス」資源の例,年間発生推定量と現在の利活用状況を示します.

表2 バイオマスの種類ごとの年間発生量と利活用状況

バイオマスの種類 年間発生量 利活用の状況
家畜排せつ物 約9,100万トン 約80%をたい肥等として利用.
食品廃棄物 約2,000万トン 約90%以上は焼却・埋立処理,残り10%未満がたい肥,飼料として利用.
約3,100万トン 約半分がリサイクル,残り約1,400万トンの大半は焼却.
製紙工場で発生する黒液 約1,400万トン(乾燥重量) ほとんどがエネルギー(直接燃料)として利用.
下水汚泥 約7,600万トン 約40%が埋立,残り約60%は建設資材やたい肥として利用.
し尿汚泥 約3,200万トン 大半が焼却・埋立.
木質系廃材・未利用材 約610万トン ほとんどが再生利用.
間伐材・被害材を含む林地残材 約390万トン ほとんどは未利用.
建設発生木材 約480万トン 約60%が未利用で,残り40%は原材料(製紙原料,ボード材料,家畜敷料等)とエネルギー(直接燃焼)利用.
農作物非食用部 約1,300万トン 約30%はたい肥,飼料,畜舎敷料等として利用,その他は大半が低利用.

(出典:「バイオマス・ニッポン総合戦略」2002年12月)

表2からわかるとおり,日本では,バイオマスの大部分を焼却や埋立で処理してきました.バイオマスに限らず,これまで一般廃棄物,すなわち家庭からのごみはどのように処理されていたのか,ということを振り返る必要があります.

表3 欧米日における一般廃棄物の焼却実施状況比較.

  日本 米国 カナダ デンマーク ドイツ オランダ スウェーデン
発生量
(百万トン)
50.2(*1) 207 23.2 2.3 43.5 12.0 3.2
焼却量
(百万トン)
37.3(*1) 32.9 1.2 2.0 11.0 2.8 1.7
焼却率
(%)
74(*1)
75(*2)
16 5 23 25 23 55
焼却施設数 1841(*3) 148 17 31 53 11 21
統計年 (*1)1992
(*2)1997
(*3)1991
1993 1992 1993 1993 1993 1991

(出所:神力達夫著,活かそう生ごみ−生物系資源活用のビジョンと具体策−,日報出版株式会社,2003年10月1日発行,p.13)

日本は,これまで廃棄物処理と言えばとにかく「焼却」処理に偏りがちでした.「焼却率」の高さは世界的に見ると,極めて特異な存在です.弊害としてダイオキシン発生等も大きな問題となっています.ところで,「焼却」以外の選択肢としては「埋立」がありますが,既に処分場の確保が年々困難になっている状況を踏まえば,残された方法は発生量の「削減(リデュース)」か,「リユース」,「リサイクル」しかありません.その一例が,「バイオマス」を「廃棄物」ではなく「資源」としての「バイオマス」利活用です.

まず,バイオマスを「エネルギー資源」と捉えて考えてみましょう.国内における年間当たりのバイオマス資源を合計し,エネルギー量に換算すると約1,300PJ(ペタジュール)になると見積もられています(出所:バイオマス・ニッポン総合戦略).これを原油に換算すると約3,500万キロリットルとなります.表1に示した日本の一次エネルギー原油換算供給量は約60,400万キロリットルですから,国産バイオマスをできるだけ有効活用することで一次エネルギー供給の約5%を賄うことができる可能性があります.この数値を『たった』5%と感じるか,逆に5%『も』と感じるかは人それぞれと思います.

一次エネルギー供給可能量として5%は少ないという印象かもしれませんが,「廃棄物」を新たなエネルギー「資源」に変えることができれば,回収できるエネルギーのみならず,焼却や埋立処分の削減等の大きな効果が期待できます.CO2排出削減にも大きく寄与できます.「新エネルギー」全体での一次エネルギーに占める比率が1%前後という現状を考えれば,とにかく使えるものは何でも活用する,という考えが大切です.そこで,実際の「バイオマス」の利活用法について考えてみましょう.


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