エネルギー問題とバイオマス
世界,特に中東地域の不安定化と,アジア等における工業化の進展に伴うエネルギー需要の拡大や,投機筋の資金流入等の複合的な理由により原油価格の上昇が生じています.日本では,1970年台前半の一次エネルギーに占める原油比率は80%弱と大きく,「石油ショック」と呼ばれる原油価格の上昇をきっかけに過剰反応を起こすことがありました.その反省を踏まえ石油備蓄や依存度抑制策が取られ取り組みにより,現在では一次エネルギーに占める原油比率は50%前後に低下しています.この原油比率を低下させた代替エネルギー源は天然ガスと原子力で,ほぼ半分づつを賄いました.また,今回の原油価格上昇においては,為替が円高傾向となっていることも幸いし,これまでのところ日本国内での混乱は表だってはいません.
「石油製品」のみならず,現在では,身の回りに「物」や「サービス」が溢れており,対価を支払えばこれらを簡単に入手できる生活が当たり前となっています.この結果,生存のために不可欠な要素とも言える「食料」や「エネルギー」でさえ,簡単に手に入るものと考えがちになっているように思えてなりません.しかし,地球規模で見ると既に「食料」や「エネルギー」供給能力は生産や資源の面から「厳しい状況」に近づいているように見えます.これらの問題を悲観的に考えても何の解決にもなりません.今回のテーマは,「エネルギー」問題の全体像をイメージした上で,「バイオマスエネルギー」の将来を考えてみようと言う試みです.「バイオマスエネルギー」のみでエネルギー問題が解決できる訳ではありませんが,工業国という一面にとらわれることなく,本質的に森林国や農業国でもある日本にとって非常に有用なエネルギー資源となり得る,という視点から考えてみたいと思います.
さて,「バイオマス」について考える前に日本における「エネルギー」の現状に関してある程度認識しておくことは有効と考えます.日本の一次エネルギーの供給に関する推移データを表1に示します.「一次エネルギー」という用語はわかり難いのですが,「エネルギーの源」となるものを示す言葉で,例えば石油,石炭,天然ガス等の化石燃料,原子力で燃料として使うウラン,水力・太陽・地熱等の自然エネルギー等の「自然界からの恵み」として人間が利用できるエネルギーのことを言います.
日本における一次エネルギー自給率(カッコ内は原子力を国産エネルギー扱いとしない場合)は20%(4%)に過ぎません.諸外国の一次エネルギー自給率の一例としてアメリカ73%(64%),フランス51%(9%),イギリス117%(108%),ドイツ40%(27%)等の数値と比較すると,日本の自給率の低さはある意味で際立っています.
表1 日本の一次エネルギー供給の推移(%)
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1973年度 |
1990年度 |
2000年度
(速報値) |
一次エネルギー供給
(原油換算百万kl)
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414 |
526 |
604 |
|
|
石油 |
77 |
58 |
52 |
石炭 |
15 |
17 |
18 |
天然ガス |
2 |
10 |
13 |
原子力 |
1 |
9 |
12 |
水力 |
4 |
4 |
3 |
地熱 |
0 |
0.1 |
0.2 |
新エネルギー等 |
1 |
1 |
1 |
(出典:資源エネルギー庁ホームページ)
表1の「一次エネルギー」として「バイオマスエネルギー」という記載はありませんが,「新エネルギー等」の一つが「バイオマスエネルギー」ということになります.「バイオマスエネルギー」は,国産の一次エネルギーという位置づけにあります.
ところで,「新エネルギー」という用語は日本独自のものであり,海外で通用する用語ではありません.海外では,一般に「再生可能エネルギー」“Renewable Energy(リニューワブル・エネルギー)”と称されており太陽エネルギー,風力エネルギー,海洋エネルギー等が代表例です.すなわち「再生可能エネルギー」は,「一度に利用できる量は限られているが,その限られた範囲内で利用すれば枯渇しないエネルギー源」と理解することができます.日本の一次エネルギーの区分では,水力,地熱や新エネルギー等が該当します.
さて,「新エネルギー」ですが,「新エネルギー法(正式名称:新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法,略称:新エネ法)」において,以下に示すエネルギー源が具体的な「新エネルギー」として扱われています.ややこしいのですが,海外では「再生可能エネルギー」という位置づけにある「地熱」や「一般水力」は「新エネルギー」ではなく,実用段階にある既存エネルギーとして扱われています.すなわち,「新エネルギー」=「再生可能エネルギー」ではありません.
1)供給サイドの新エネルギー
- 太陽光発電
- 風力発電
- 太陽熱利用
- 温度差エネルギー
- 廃棄物発電
- 廃棄物熱利用
- 廃棄物燃料製造
- バイオマス発電(*)
- バイオマス熱利用(*)
- バイオマス燃料製造(*)
- 雪氷熱利用(*)
2)需要サイドの新エネルギー
- クリーンエネルギー自動車
- 天然ガスコージェネレーション
- 燃料電池
(*)は,改正「新エネ法」(2003年1月25日公布・施行)により新たに追加.
今回のテーマである「バイオマス」エネルギーは,改正「新エネ法」では供給サイドの新エネルギーとして位置づけられ,「発電」,「熱利用」,「燃料製造」に分類されています.
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