No.102:風力発電(第2回)

風力発電(その2)

No.101:風力発電(第1回)

風力発電(その1)

No.100:年始のご挨拶(2006年)

「年始にあたって」

No.099:水素エネルギー・燃料電池(その4)

燃料電池

No.098:水素エネルギー・燃料電池(その3)

水素の製造

No.097:水素エネルギー・燃料電池(その2)

水素エネルギーの位置づけ

No.096:水素エネルギー・燃料電池(その1)

水素生産および需要の現状

No.095:バイオマス(第7回)

バイオマス利活用例(3)

No.094:バイオマス(第6回)

バイオマス利活用例(2)

No.093:バイオマス(第5回)

バイオマス利活用例(1)

No. 101 update 2006.01.17 PDF版(126.1 kbyte)

風力発電(第1回)

風力発電(その1)

 今回から「風力発電」について考えてみたいと思います.
 
「風力発電」の動力となる風力エネルギーは,風向・風速の変動により安定したエネルギー供給の難しさはあるものの,潜在的には資源が広範に存在し,無尽蔵な純国産のエネルギーとして位置付けられます.

「風力発電」の原理は,ご存知のとおり風車により回転エネルギーに変換し,発電機を回して電気エネルギーを取り出すもので,非常にわかり易い技術と言えます.

 かつてシュマッハ−が「スモール・イズ・ビューティフル」で唱えた「人間の顔を持った技術」や「中間技術」として表現される技術として位置付けることができるかもしれません.

 また,宮崎駿監督の作品であるアニメ「風の谷のナウシカ」(1984年)では「風」や「王蟲(オウム)」は自然の象徴であり,「人間」と「自然」との共存や,過剰な「技術」に対する批判の精神が底流にあるように感じます.

 いずれにしても「風力発電」に対するイメージが,「再生可能エネルギー」の象徴として人々の共感を得ているのは自然なことと思います.

 一方,感覚的に大きな共感を覚える「風力発電」ですが,エネルギー資源としての実力をできるだけ正確に理解することは現実的には非常に重要と考えます.

 そこで,本メルマガでは,以下の観点から「風力発電」について考えます.

(1)風の発生機構
(2)風力の表記法
(3)風力の資源量
(4)風力の利用法
(5)風力発電を取巻く動向
(6)風力発電の具体例
(7)風力発電の将来


 今回は(1)の「風の発生機構」について考えたいと思います.風の発生については中間法人日本風力発電協会(http://www.jwpa.jp/)等のホームページが参考となります.

 まず,「風」の駆動エネルギー発生源ですが,これは「太陽」にあります.太陽は地球を暖めていますが,暖める場所や暖められるものによって温度差が発生し,この温度差により風が発生します.

 地球のエネルギー収支をみると,赤道付近で熱の供給過剰,極地方で放出過剰となっています.そこで,熱が余っている赤道付近から,熱が足りない極地方へと熱が移動します.この担い手の一つが「大気」の流れ,すなわち「風」です.

 もし地球が自転していないとすれば,単純に赤道で上昇して極で下降する大気の対流となります.地上では極地方から赤道に向かって吹く風,すなわち北半球では北風,南半球では南風となります.

 また,陸地と海の温度差によっても風が発生します.日中,太陽が陸地と海を暖めます.しかし,陸地に比べて海の温度は上がらないため,陸地の空気が先に上昇を始めます.これにより昼間は海から陸に風が吹いてきます.

 夜になると陸地が先に冷えるため,空気が下降し陸から海に風が吹きます.これらの海陸風は,地表温度の影響を受けやすい,せいぜい地上1kmほどの下層大気(大気境界層)の現象ですが,「風力」利用には重要な「風」となります.


 次に気圧という概念をもとに「風」を考えてみます.地球上には空気があり,空気は地球上に圧力をかけています.これが気圧です.空気は温まると上昇し,冷えると下降するという特性を有しています.冷えて下降してきた空気はより地球上に高い圧力をかけます.これが高気圧です.

 逆に,空気が上昇すると圧力が低くなります.これを低気圧と呼びます.高気圧の所では,冷えた空気は下降し地面へ押し付けられ,行き場を失った空気は気圧の低いほうへ逃げていき,低気圧に吸い込まれていきます.

 これらの結果として,空気は気圧の高い方から低い方へ流れる性質を示します.すなわち高気圧では吹き出し,低気圧では吹き込むように風が吹きます.


 ここで,地球の自転が風に与える影響についても考えてみたいと思います.
(出典:科学のつまみ食い;http://www.kagaku.info/faq/plane040111/)

 地球の自転による赤道直下の地表の速度を計算すると,地球の半径は6378km,赤道での円周は約40,000kmになります.

 地球は24時間で一周することから,時速約1670kmで回転していることになります.これは,音速よりも早い秒速460mに相当します.

 このような高速で移動している地表ですが,私たちが自転の影響を体感することはありません.しかし,自転により大気の流れは影響を受けます.

 地球の自転により,北極点上空から見ると反時計回り,南極点上空から見ると時計回りに回っています.すなわち,北半球では右向き,南半球では左向きの「コリオリの力(コリオリのちから)」すなわち「転向力」が働きます.

 コリオリの力は,回転座標系上で移動した際に移動方向と垂直な方向に移動速度に比例した大きさで受ける慣性力の一種です.この回転座標系における慣性力には,他に回転の中心から外に向かって働く遠心力があります.

 この力により,対流(大気の循環)は3つに分かれます.まずコリオリの力の弱い赤道付近では大気は上昇し,中緯度で下降する比較的単純な対流になっています.これをハドレー循環と呼んでいます.

 ハドレー循環で降下した空気は,極方向へ向かい,極循環の作り出す低気圧帯(中緯度低圧帯)で上昇して,上空で亜熱帯高圧帯へと向かうフェレル循環が生じます.

 また,北極や南極では、極を取り巻く寒気が、中緯度低圧帯へ流れ出し、そこで上昇して、再び極へ戻る極循環が発生します.

 このような大気の循環に伴い,地表付近では,亜熱帯高圧帯から赤道へ吹く貿易風,北緯60°及び南緯60°付近で,一方の極へ向かって吹き込む偏西風,北極や南極から吹く極東風が生まれます.


 最後に「自然現象」である「風」の予測の難しさを暗示する概念に「バタフライ効果」があります.この概念は,カオス理論を端的に表現した思考実験のひとつとなっています.

 カオスな系では初期条件のわずかな差が時間とともに拡大して結果に大きな違いをもたらす可能性があります.この状況の一例として「北京で蝶が羽ばたくとニューヨークで嵐が起こる」と例えられ,これをバタフライ効果と呼んでいます.

 いずれにしても「風」は地球規模,地域規模や局所的な「大気」の流れが複雑に関連し合って生じるカオスな系として自然界で観察できるシステムの一つです.したがって「大気」の流れである「風」を正しく予測することは容易ではないことが,「風力」利用の難しさなのかもしれません.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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