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No.002:将来の社会像(第1回)
将来の社会像(第1回)
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No.001:発行にあたって
発行にあたって
No. 088 update 2005.04.07 PDF版(163.2 kbyte)
今回は「複雑な中央と地域の関係」というテーマで考えたいと思います.「NIMBY」(ニンビー)という用語があります.Not In My Back-Yard の略称で,公共のために必要な事業であることは承知の上で,自分の居住地域内で行なわれることには反対する,という住民の姿勢を示す概念のことです.この種の迷惑施設としては,ごみ焼却場,し尿処理施設,産業廃棄物処理施設,リサイクル施設,埋立処分場,精神病院,葬儀・火葬場などがあげられますが,原子力関連施設もある意味で同様の意味合いをもつ反対に遭遇することがあります.一般的な迷惑施設の場合,建設が行われても立地地域ではそれほど大きな見返りは期待できませんが,原子力関連施設の場合には「交付金」「補償金」や「雇用の拡大」という経済的な見返りが期待でき,かつその規模も大きいことから,これがある種の「利権」の温床となる可能性は否定できません.この種の「利権」は原子力固有のものではなく,高速道路建設等のような大きな資金を投じて建設を行う公共事業の場合にも,特定の「利権」が生じるものと個人的には感じています.ところで,日本で原子力発電所が設置されている自治体は以下のとおりであり,大都市圏からある程度離れた北海道,東北地方や中部地方等に集中している点が特徴です.北海道古宇郡泊村青森県下北郡東通村宮城県牡鹿郡女川町宮城県牡鹿郡牡鹿町福島県双葉郡大熊町福島県双葉郡双葉町福島県双葉郡富岡町 福島県双葉郡楢葉町茨城県那珂郡東海村新潟県西蒲原郡巻町新潟県柏崎市新潟県刈羽郡刈羽村静岡県御前崎市石川県羽咋郡志賀町福井県敦賀市福井県三方郡美浜町福井県三方郡高浜町福井県大飯郡大飯町島根県八束郡鹿島町佐賀県東松浦郡玄海町鹿児島県薩摩川内市原子力発電所以外の原子力施設を抱える自治体もあり,その代表例が青森県の六ヶ所村です.六ヶ所村にはウラン濃縮工場、低レベル放射性廃棄物埋設センター,高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの他,最近ウラン試験が開始された再処理工場等の「核燃料サイクル基地」と呼べる主要施設が集中的に立地しています.ところで現在そして過去においても,原子力発電所を含む原子力関連設備の立地点の確保は困難な状況に直面してきました.これらの状況を踏まえ,電源立地を円滑に進めるため,「電源三法」すなわち「電源開発促進税法」「電源開発促進対策特別会計法」「発電用施設周辺地域整備法」が整備されています.これに基づく平成16年度の「電源開発促進対策特別会計」の規模は以下のとおりです.平成16年度の原子力関係経費予算額 4,707億円一般会計 1,435億円電源開発促進対策特別会計 3,372億円「電源開発促進対策特別会計」は,「電源開発促進税法」に基づく歳入が原資になっており,電力1kWh当たり42.5銭が徴収されています.徴収された電源開発促進税は「電源立地勘定」と「電源利用勘定(以前は電源多様化勘定)」として区分され,歳出されています.「電源立地勘定」は,発電用施設周辺地域整備法の規定に基づく交付金及び発電用施設の設置の円滑化に資するための財政上の措置による交付金,補助金,委託費等で構成されており,平成16年度における「電源立地勘定」は1,846億円となっています.一方の「電源利用勘定」は1,426億円です.(出典:原子力委員会ホームページhttp://aec.jst.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2005/siryo12/siryo12s.pdf)これらの制度により,立地地域および周辺地域には数千億円規模の資金が「交付金」として還元されることになります.しかし,これらの交付金が立地地域にとって「生きた」資金として活用できるかどうかは難しいところです.いずれにしてもこれまでのような「中央」と「地域」の関係では,「中央」に位置する大都市圏で必要な電力を「地方」に設置した「発電施設」から供給を受けるための見返りとして「交付金」を支払っている状況にあります.「中央」の立場としては「お金」を「地方」に支払うことは,ある種の「免罪符」となり,「地域」の抱える問題等にはできるだけ触れないで済ませたいという思いが見え隠れしています.しかし,近年の原子力関連の不祥事に伴い,原子力発電所を抱える「地域」にある自治体は,国の政策すなわち「国策」に対しても,受身であるばかりではなく種々の形で意見を述べるようになってきました.例えば福島県は10基の原子力発電所と12基の火力発電所が立地しており,その総出力は1,792万kWに達しています.国内最大の発電所立地県としての立場から国のエネルギー政策全般に対する問題提起を行うことを念頭においた「福島県エネルギー政策検討会」を2002年5月に発足させています.エネルギー政策のような,本来「国」の安全保障に係わる政策に対する「自治体」の関与はどの程度まで許容されるか,という問題はあります.しかし「国」の「エネルギー政策」に対する信念が確立されているとは到底思えないような状況では「当事者」として意見を述べることは当然の権利と言えます.話は変わりますが,広瀬隆氏の「東京に原発を」と題する著書があります.確かに電力消費地の近くに発電所を建設することは効率面からは理にかなうものです.この種の問題提起に対する回答の一例が資源エネルギー庁のホームページ(http://www.enecho.meti.go.jp/faq/nuclear/q01.htm)にあります.質問:地方で原子力の立地が進まないのであれば,東京に立地したらどうですか。 回答:商業用の原子力発電所については,その立地に当たり,堅固な地盤,大量の冷却水,広い敷地の確保が重要な条件となってきます。加えて,実際に原子力発電所の立地を進める電気事業者としては,経済性の観点も非常に重要な要素となります。現実問題として,そのような広大で地盤が安定した土地を東京等において見いだすことは,商業的,技術的に考えて困難と思われます。 東京に最も近い原子力発電所は120〜130km程度離れた茨城県東海村で稼動しています.米国の例ではニューヨーク市の北35マイル(60km弱)離れた所にインディアン・ポイント原子力発電所があります.同時多発テロ(9.11)以降,米国内では都市に近い場所にある原子力発電所の是非についての議論も盛んになりました.これまでの事故等から,原子力発電所を含む「原子力」が絶対安全と言えないことは明らかです.これはある意味で当然のことであらゆる技術に「絶対」安全なものはないと言えます.安全に「絶対」ということがない,とすれば可能な限り「リスク」を小さくすることが最も現実的な対応ということになります.東京に「原子力発電所」を設置しないのは,広大な土地の確保や水の確保,事故時における避難の困難性等,極めて多くの要因を踏まえた上での判断であることはあきらかです.社会としての「リスク」を最小化するために「地域」に発電所を建設されることは迷惑な話ですが,必ずしも不合理な判断という訳ではありません.しかし,どちらかと言えば強い立場にある「中央」が,「地方」の抱える様々な問題について十分に理解を示しつつ,「中央」と「地域」がそれぞれの特徴を活かし合える相互補完的な関係を構築することは大切と思います.なお,今回で「原子力」をテーマとした内容は一区切りをつけさせていただき,次回からは「バイオマス」エネルギーをテーマとして考えていきたいと思います.
[文責:スリー・アール 菅井弘]
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