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No.092:バイオマス(第4回)
バイオマス利活用の概要(2)
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No.091:バイオマス(第3回)
バイオマス利活用の概要(1)
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No.090:バイオマス(第2回)
『バイオマス』利用の現状
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No.089:バイオマス(第1回)
『バイオマス』って何ですか
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No.088:原子力(第10回)
複雑な中央と地域の関係
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No.087:原子力(第9回)
これまでの原子力施設で起きた事故
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No.086:原子力(第8回)
放射性廃棄物をどう扱うか
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No.085:原子力(第7回)
高速増殖炉とプルトニウム
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No.084:原子力(第6回)
核燃料サイクルと再処理
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No.083:原子力(第5回)
将来における原子力の扱い
No. 085 update 2005.02.15 PDF版(110.3 kbyte)
今回は,「高速増殖炉とプルトニウム」というテーマで考えたいと思います.メルマガ第74号の「原子力って何」で原子力の基本的なことを考えてきました.この中で原子力では「エネルギー源」として「ウラン」や「プルトニウム」を利用していることをお話しました.「ウラン」は自然界に存在する物質ですが,「プルトニウム」は自然界にはほとんど存在せず,原子炉内で「ウラン」が変化することで生じています. ところで「ウラン」と呼んでいる元素ですが,実はいくつかの「同位体」と呼ばれる成分で構成されています.代表的な成分は「ウラン−235」と「ウラン−238」と呼ばれる同位体です.イメージとしては「ちょっと軽い成分(ウラン−235)」と「ちょっと重い成分(ウラン−238)」です. ウランの2つの成分は,驚くほど似ているのでこの2つの成分を分けることは簡単ではありません.もちろん少し重さや化学的性質などが違いますから,分離できない訳ではありません. ウラン以外の元素でも複数の同位体から構成されているものが沢山ありますが,普通の使い方では自然に同位体が相互に分離することはほとんどありませんので,混ざった状態でほとんど気にせずに使っています. 一般的な使い方ではほとんど気にせずに使える同位体の混合物ですが,「核反応」の世界では,同位体によって大きく性質が異なるということがあります.その代表例が「ウラン」です.「原子力」におけるエネルギーの源となる反応を「核分裂反応」と呼んでいます.「核分裂」の「核」は原子の真ん中にある「原子核」と呼ばれる部分が,「分裂(2つ以上に分かれる)」するという現象です.この「核分裂」のし易さが「同位体」によって大きく異なることがあります.「核分裂」のし易さ(断面積と呼んでいます)を数字で表すと以下のようになります(エネルギーの落ちた状態の中性子に対する数値です).あまり馴染みのない「バーン」という単位で表現されますが,反応のし易さを面積単位で表示したもので,この数字が大きいほど「核分裂」は起こり易いことを意味します.プルトニウム−239 約740バーンプルトニウム−241 約1070バーンウラン−235 約580バーンウラン−238 − 自然界にあるウラン(天然ウランと呼んでいます)は,99%以上がウラン−238で,核分裂を起こし易いウラン−235は1%未満しか含んでいません.例えば,ウラン鉱石を採掘,製錬し,ウランを燃料として利用しても,原子炉内で核分裂反応に寄与する部分はウラン全体の1%にも満たないことになります. いずれにしても,「ウラン」はある意味で資源としての利用効率が非常に悪い燃料であることが理解できます.例えば1トンのウランがあるとして,実際に原子炉で核分裂反応を起こして発電等に利用できる分は僅か1%の10キログラム程度ということになります. そこで,残りの99%を占めるウラン−238を何とか利用できないか,という考えが浮んできます.実はウラン−238も原子炉内の核分裂に寄与しています(この場合は核分裂で生まれたてのエネルギーの高い状態の中性子によって反応が起こります).ウラン−238の発電への貢献度は10%弱という状況です. 一方,ウラン−238は原子炉内で,中性子と呼ばれる核分裂反応で生じるものを吸収し,「プルトニウム(プルトニウム−239等)」という元素に変身します.先ほど核分裂のし易さを数字で表現しましたが,「プルトニウム」には「ウラン」以上に核分裂を起こしやす性質があります. この原子炉内で生じた「プルトニウム」を既存の原子炉で再利用することを「プルサーマル」利用と呼んでいます.「プルサーマル」の「プル」は「プルトニウム」のことで,サーマルは「熱」を意味しています.「サーマル」という呼び名は,既存の発電所で採用されている原子炉が「熱中性子炉」であることに由来しています.「熱」中性子と言ってもイメージがわかないのですが,運動速度の「遅い」中性子(先述のエネルギー落ちた中性子)という意味合いです. これに対して,「熱中性子」と比較して速度の早い中性子(先述の核分裂で生まれたてのエネルギーの高い状態の中性子)を「高速中性子」と呼んでいます.そして,「熱中性子炉」ではなく「高速中性子」が「核分裂」を起こすための刺激として用いている原子炉のことを「高速増殖炉」と呼んでいます.「高速増殖炉」は,究極の「原子炉」という感じのものであり,かつては「夢の原子炉」でした.何ゆえに「夢」の原子炉なのかと言うと,原子炉内で燃料であるウランが,使った以上に新たに原子炉燃料として使える「プルトニウム」に変化するためです. 非常に大雑把な数値ですが,「プルサーマル」利用では「ウラン」の燃料としての利用率を2倍程度にすることができるに過ぎませんが,「高速増殖炉」が実現できれば「ウラン」の利用率を50倍程度にすることも不可能ではありません. しかし,国内の状況を踏まえると「高速増殖炉」の原型炉である「もんじゅ」は1995年のナトリウム漏えい事故以来,原子炉は停止されており,開発はストップしています.フランスでも同様に「スーパーフェニックス」と呼ばれる高速増殖炉実証炉もナトリウム漏れ等の技術的な課題や,政治的な理由により閉鎖,解体されることになりました. 現時点で,原子力のもつ潜在力を活用するために不可欠な両輪である「高速増殖炉」と「再処理」の中で,「高速増殖炉」は全く先の見えない状態にあります.このため,「暫定」策として,「熱中性子炉」と「再処理」を組み合わせた「プルサーマル」利用が「フランス」等で既に行われており,日本もこの流れに乗るために「再処理」を実現しようとしています.「高速増殖炉」と「プルトニウム」は,人類をエネルギー問題から解放するための一つの「夢」として位置づけられる時代もありました.しかし,「高速増殖炉」の先行きが見えない状況下では「原子力」も有限である「ウラン」資源の制約を大きく受けることになる点を十分に理解しておく必要があると思います.
[文責:スリー・アール 菅井弘]
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