No.092:バイオマス(第4回)

バイオマス利活用の概要(2)

No.091:バイオマス(第3回)

バイオマス利活用の概要(1)

No.090:バイオマス(第2回)

『バイオマス』利用の現状

No.089:バイオマス(第1回)

『バイオマス』って何ですか

No.088:原子力(第10回)

複雑な中央と地域の関係

No.087:原子力(第9回)

これまでの原子力施設で起きた事故

No.086:原子力(第8回)

放射性廃棄物をどう扱うか

No.085:原子力(第7回)

高速増殖炉とプルトニウム

No.084:原子力(第6回)

核燃料サイクルと再処理

No.083:原子力(第5回)

将来における原子力の扱い

No. 084 update 2005.02.03 PDF版(142.7 kbyte)

原子力(第6回)

核燃料サイクルと再処理

 今回は,「核燃料サイクルと再処理」というテーマで考えたいと思います.「核燃料サイクル」についてはメルマガ第79号(原子力(第2回))で述べましたので詳細は省略します.「再処理」はこの「核燃料サイクル」を構成する非常に象徴的な1ステップということになります.

「再処理と直接処分」

 青森県六ヶ所村での再処理事業と関連して,様々な報道が行われています.これらの中には,国内での将来の原子力利用において,非常に重要なことが含まれておりますので,簡単に整理してみたいと思います.

「再処理」を実施しない場合と実施する場合の違いから考えてみたいと思います.再処理を実施するかどうかの議論は各国でもこれまで行われてきています.再処理をしない「ワンススルー」方式と再処理を行う「リサイクル」方式で,政策的には前者を「直接処分路線」,後者を「再処理路線」と呼ぶことができます.

「直接処分路線」をとる国としてはアメリカ,カナダ,スウェーデン,フィンランド,韓国等が,「再処理路線」をとる国としてはフランス,ロシア,中国等があります.

 また,中間的な「部分再処理路線」をとっている国としては,国内に再処理工場があるイギリス,国外再処理のみを一部行ってきたドイツ等があります.

 これらの国々は,各国の地政学的要因,国内エネルギー資源の有無,原子力発電の実施規模,コスト競争力,温室効果ガスの排出状況等の種々の事情から選択を行っています.

 
各国の原子力発電規模,原子力比率およびエネルギー自給率

        原子力発電  総発電電力量に 一次エネルギー自給率(%)
        規模(万kW)  占める原子力の  
                比率(%)          (原子力含)(原子力除)

日本      4546     35       19      4

(直接処分路線)
アメリカ    9830     20       73      64
カナダ     1211          13              153      145
スウェーデン  945      50              63            29
フィンランド  266      27              45            29
韓国      1585     40       18      3 

(再処理路線)
フランス    6336      78       51      8
ロシア     2079     17       167      161
中国      659      2               99            99
インド     255      3               82            81

(部分再処理路線)
イギリス    1205     24       114      104
ドイツ     2064     28       34      27

(出典:Energy Balance of OECD Countries, 2001-2002)


「直接処分路線」と「再処理路線」の選択は各国の状況に依存し,原子力を除いた場合のエネルギー自給率の低いフランスと韓国も全く異なる路線を採用しています.日本と最もエネルギー事情が類似している国としては韓国があります.

 韓国は新規発電所の計画もあり原子力発電に積極的ですが,1991年の朝鮮半島の非核化平和構築のための宣言で濃縮と再処理の放棄を決めたという政治的な背景から「直接処分路線」を選択しています.

 一方,先進国で最も一次エネルギー自給率の低い国の一つであるフランスは,原子力開発に最も積極的で電力の78%を原子力で供給し,一次エネルギー自給率51%を達成している,世界最大の「再処理路線」選択国です.

 いずれにしても諸外国の状況は参考にはなりますが,「日本は自国のエネルギー政策をどのようにするか」という問題の解決へは長期的な視点からの判断が不可欠となります.しかし,原則として日本は「直接処分路線」と「再処理路線」のいずれの選択も可能である,と考えます.

 これまでこの種の路線選択に関する議論はほとんど国内ではなかったと感じていますが,この選択は日本における今後の原子力利用をどのように位置づけるか,という意味合いでも本当は非常に重要なポイントと考えています.

 どちらの選択がより適切か,という判断は何を重視するかという視点に大きく依存します.あまりに複雑で簡単ではない問題ですが,あえてできるだけ両者の違いを理解するという観点から,簡単に両路線の特徴を整理したいと思います.


「直接処分路線」

「直接処分」は原子炉から取り出した「使用済み燃料」中にある「核分裂生成物」,「ウラン」および「プルトニウム」を分離することなく,そのまま「直接」地中に埋設処分しようという考え方です.有効活用できる「ウラン」や「プルトニウム」も一緒となったままの「使用済み燃料」として廃棄するので,これらを分離する「再処理」が不要となります.

 この結果,使用済み燃料の処分コストとしては「再処理」を行う場合よりも低減できる可能性があるのは,一般論から言っても当然のことと思われます.また,核物質として特に注意が必要な「プルトニウム」を分離しないことから,「プルトニウム」の再利用方法について悩まされることはありません.

 一方,「直接処分」の最大の難点は海外から輸入した「ウラン」を一度使用しただけで廃棄するため,「化石燃料」と同様に海外資源に依存するエネルギーとして考える必要がでてきます.

 これまで,純国産「エネルギー資源」としての「原子力」を位置づけてエネルギー政策を進めてきた感がありますが,「化石燃料」と同様に「ウラン」を用いた「原子力」も非国産エネルギーとして扱うことが不可欠となり,「原子力」を一次エネルギー「自給率」を高めるための手段と位置づけることはできなくなります.すなわち,エネルギー自給率4%の国として,どのようなエネルギー政策を進めるべきか再検討する必要があります.


「再処理路線」

「再処理」とは「使用済み燃料」から「ウラン」や「プルトニウム」を回収し再度「燃料」として使用できるようにすることです。先に,一次エネルギーの自給率を算出する際に,原子力を含めた場合と含めない場合がありました.

 考えてみると不思議な話で,日本では原子力発電用の燃料である「ウラン」を全量,海外から輸入しています.したがって,「ウラン」は国産エネルギー源と位置づけることには無理がありますが,「プルトニウム」を国産エネルギーと考えることは,必ずしもできない相談ではありません.すなわち,日本の「真の」エネルギー自給率は4から19%の間で,恐らく10%程度と考えた方が良いのかもしれません.


「結局のところ」

 最終的に「再処理」の妥当性の判断は,エネルギー供給源としての「原子力」をどのように位置づけるかで自ずと決まってくるように思います.

「ウラン」燃料を比較的安い価格で確保できる期間だけ原子力を利用し,できるだけ早期に「原子力」から「再生可能エネルギー」等の他のエネルギーへのシフトを最優先するということであれば,「再処理路線」ではなく「直接処分路線」を選択することが自然です.

 一方,「再生可能エネルギー」等の理想的な方法による国内におけるエネルギー確保の将来像が明確ではない現時点で「原子力」依存からの脱却を念頭においた「直接処分路線」を選択することはリスクが大きく,今後しばらくは「原子力」の継続利用を前提にエネルギー供給を考えよう,ということであれば「燃料」利用効率の改善の観点から「再処理路線」を選択することは自然な流れ,と考えます.

 このような状況の中,2004年末に六ヶ所再処理工場における「ウラン試験」の開始が決まり,再処理事業が本格化する方向に進んでいます.しかし,今後も「直接処分路線」と「再処理路線」の議論が繰り返されるような気がします.

「再処理」の問題は,日本における「エネルギー」確保をどのように行うかということをさえ明確にできれば自ずと方針は決まります.このためには今ひとつすっきりしない「原子力」のエネルギー源としての利用について,現実のデータに基づく議論が不可欠ではないかと考えています.

 2002年6月に議員立法として成立した「エネルギー政策基本法」第12条の規定に基づき,2003年に「エネルギー基本計画」が閣議決定・国会報告されました.この計画は,今後10年程度を見通してエネルギー需給全体に関する施策の基本的な方向性を示したものです.

 しかし,エネルギー政策の基本方針を定めた法律があること自体,国内ではほとんど知られていないような気がしてなりません.一つの「国策」としての意思決定ではあると思いますが,国民が十分状況を理解していないところでの議論では,何も変わりません.この法律を議論のたたき台として,今後,日本におけるエネルギー問題に対する関心が高まることを期待したいと思います.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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