今回は,「国内外での原子力利用の現状」というテーマで考えたいと思います. 1973年から最近までの主要国の電源別発電電力量の構成変化を次に示します.日本では全発電量の32−34%,すなわち電力の3分の1が「原子力」により生産されていることがわかります.なお,「LNG」と記載してあるのは「天然ガス」のことです. 原子力 LNG 石炭 石油 水力他日本 1973年 2 2 8 73 15 1996年 30 20 18 21 10 1999年 34 26 17 11 12 2004年 32 24 21 11 11 (見込み) 2009年 36 22 22 9 11 (見込み)アメリカ 1973年 5 19 46 17 13 1996年 20 13 53 3 3フランス 1973年 8 6 19 27 40 1996年 78 1 6 2 13ドイツ 1973年 3 11 69 12 5 1996年 29 9 55 1 6イギリス 1973年 10 1 62 26 1 1996年 27 24 42 4 3(出典:OECD/IEA「ENERGY BALANCES OF OECD COUNTRIES(1995-96)」 日本の2004年および2009年見込みは電気事業連合会ホームページ) 国内で利用しているエネルギーは「電力」だけではありませんので,「一次エネルギー」全体に占める比率としては1999年時点で約13%という状況です.日本の一次エネルギー供給構成の推移 原子力 水力 石炭 石油 LNG その他1973年 1 4 15 77 2 11979年 4 5 14 72 5 11999年 13 4 17 52 13 1(出典:総合エネルギー統計(平成12年度版)) また,国内および世界における原子力発電の状況を以下に示します.日本で稼動中の原子炉は,「軽水炉」と呼ばれるもので,原子炉構造の違いから「沸騰水型原子炉(BWRと呼んでいます)」と「加圧水型原子炉(PWRと呼んでいます)」の2種類に分類できます. BWRとPWRの違いですが,イメージとしては,発電タービンに供給するための蒸気を原子炉内で「直接」を発生させるのが「BWR」で,原子炉内で加熱された高温高圧水(圧力を高くして沸騰しないようにした水)の熱を利用して,別の水を用いて「間接」的に蒸気を発生させるのが「PWR」という感じです. 日本ではBWRよりもPWR型の原子炉が多い状況ですが,世界で稼動している原子炉の約60%がPWR,約20%がBWR,残りが軽水炉(BWR,PWR)以外という内訳になっています. ちなみに「軽水」と呼んでいるのは「普通の水」のことで,海外では「軽水」ではなく「重水」と呼ばれるちょっと特殊な水を用いた原子炉が稼動しており,これらと区別するため,この名称があります.現在,日本では「重水」を用いた原子炉は稼動していませんが,廃炉措置中の「ふげん」と呼ばれる原子炉(新型転換炉と呼んでいます)では「重水」を使用していました.日本で稼動中の原子力発電所(2003年12月31日現在)会社名 基数 炉型別基数 出力[万kW] BWR PWR 日本原子力発電 3 2 1 261.7 北海道電力 2 0 2 115.8東北電力 3 3 0 217.4東京電力 17 17 0 1,730.8中部電力 4 4 0 361.7北陸電力 1 1 0 54.0関西電力 11 0 11 976.8中国電力 2 2 0 128.0四国電力 3 0 3 202.2九州電力 6 0 6 525.8合計 52 29 23 4,574.2(出典:日本原子力産業会議)世界の原子力発電開発の現状(2003年12月31日現在,単位万kW,グロス電力出力) 運転中 建設中 計画中 合計 出力 基数 出力 基数 出力 基数 出力 基数米国 10,243 103 10,243 103 フランス 6,613 59 6,613 59日本 4,574 52 503 5 858 6 5,935 63 ロシア 2,257 30 300 3 2,226 33ドイツ 2,169 18 2,169 18韓国 1,572 18 200 2 680 6 2,452 26英国 1,303 27 1,303 27カナダ 1,193 16 1,193 16ウクライナ 1,184 13 400 4 1,584 17スウェーデン 983 11 983 11スペイン 788 9 788 9中国 630 8 277 3 907 11ベルギー 600 7 600 7台湾 514 6 270 2 784 8スイス 337 5 337 5リトアニア 300 2 300 2ブルガリア 288 4 288 4インド 277 14 396 8 420 6 1,093 28フィンランド 276 4 170 1 446 5スロバキア 264 6 264 6ブラジル 201 2 131 1 332 3南アフリカ 189 2 189 2ハンガリー 187 4 187 4チェコ 176 4 196 2 372 6メキシコ 136 2 136 2アルゼンチン 101 2 75 1 175 3スロベニア 71 1 71 1ルーマニア 71 1 282 4 353 5オランダ 48 1 48 1パキスタン 46 2 46 2アルメニア 41 1 41 1イラン 229 2 88 2 317 4カザフスタン 192 3 192 3エジプト 187 2 187 2イスラエル 66 1 66 1合計 37,629 434 3,128 36 2,792 28 43,549 498 (出典:日本原子力産業会議,「世界の原子力発電開発の動向」) 現在,原子力を実績ベースで最も利用している国はアメリカ,フランス,日本の3ヶ国で,出力ベースでの合計が21,430万kWで約57%,基数ベースでの合計が214基で約50%を占めています. 一方,新規原子力発電所の建設に積極的な国としては,日本,韓国,インドの3ヶ国という状況です.ちなみに,日本と韓国はエネルギー自給率の低さなどの面で驚くほど事情が似ています. また,OECD/NEA(経済協力開発機構)による将来の世界におけるエネルギー消費見通しを以下に示します.今後,20〜30年程度は石油と石炭がエネルギー供給の主流であることは変わりはないようです.原子力の利用は石油量換算で800百万トン前後の現状維持程度と推定されています.世界のエネルギー消費の推移と見通し 石油量換算 内訳(%) (百万トン) 石油 石炭 LNG 原子力 水力 再生可能エネルギー等1971(実績) 4,999 29 49 18 1 2 2 2000(実績) 9,179 26 39 23 7 3 32010(見通し) 11,132 24 38 25 7 3 32020(見通し) 13,167 24 38 27 6 3 42030(見通し) 15,267 24 38 28 5 2 4(出典:OECD/NEA 「World Energy Outlook 2002 Edition」) 日本では「再生可能エネルギー等」への期待が膨らんでいますが,OECD/NEA見通しでは「再生可能エネルギー等」の拡大はあまり見込まれていません.「原子力」の利用も緩やかな低下を予想しています.一方,今後のエネルギー需要の拡大は「石油」,「石炭」,「LNG」のような化石燃料で賄わなければならないと推定しています. 日本でも経済産業省・総合資源エネルギー調査会で2030年までのエネルギー見通しを推計しています.この推計では,2030年には「水力」と「新エネルギー」の「再生可能エネルギー等」で一次エネルギーの約10%を賄える可能性がある,としています.しかし,残りの約90%は「石油」,「石炭」,「LNG」,「原子力」の何れかの方法で供給を考えざるを得ない,ということは忘れてはならないと思います. |