今回は「紙」のリサイクルについて考えてみたいと思います.まず,日本における「紙」の生産および消費状況を以下に示します.日本における紙・板紙の生産推移(単位:万トン) 1985 1990 1995 2000 2003 新聞用紙 259 348 310 342 355 (11.7%)印刷・情報用紙 703 925 1,057 1,174 1,118 (36.7%)包装用紙 108 119 109 105 96 (3.2%)衛生用紙 109 137 156 174 167 (5.4%)雑種紙 - 115 116 109 104 (3.4%)紙計 1,179 1,643 1,747 1,904 1,840 段ボール原紙 583 828 902 968 921 (30.2%) 紙器用板紙 182 224 214 210 198 (6.5%)その他の板紙 103 114 1,049 102 88 (2.9%)板 紙 計 868 1,166 1,219 1,279 1,206 紙・板紙計 2,047 2,809 2,966 3,183 3,046 (資料:経済産業省「紙・パルプ統計」)日本おける製紙原料の消費推移(単位:万トン) 古紙 輸入パルプ 国産パルプ その他 合計1985 1,053(49.3%) 265(9.3%) 892(41.8%) 4(0.2%) 2,1341990 1,461(51.5%) 265(9.3%) 1,108(39.0%) 6(0.2%) 2,6401995 1,580(53.4%) 289(9.8%) 1,084(36.6%) 5(0.2%) 2,9592000 1,805(57.0%) 252(8.0%) 1,102(34.8%) 5(0.2%) 3,1652003 1,841(60.2%) - 1,215(39.7%) 3(0.1%) 3,059(注)2002年より輸入パルプの割合は国産パルプの数字に含まれる.(資料:経済産業省「紙・パルプ統計」) 大まかに言うと,消費量としては2000年をピークとして,現在は年間3,000万トン程度の生産および消費規模となっています.用途としては印刷・情報用紙と段ボール原紙が中心でそれぞれ全体の1/3程度となっています.一方,世界の生産量と主要国における国民一人当たりの消費量は以下のとおりです.世界の紙・パルプ生産量(2002年,単位:万トン)アメリカ 8,077 24.5%中国 3,780 11.4%日本 3,067 9.3カナダ 2,008 6.1ドイツ 1,853 5.6フィンランド 1,278 3.9スウェーデン 1,072 3.2韓国 981 3.0フランス 980 3.0イタリア 927 2.8その他 9,037 27.3世界合計 33,070 100資料:PPI 誌出典:日本製紙連合会ホームページhttp://www.jpa.gr.jp/ja/about/seishi/index.html主要国の国民一人当たりの紙・板紙消費量(2003年,単位:kg)フィンランド 333アメリカ 314スウェーデン 268カナダ 244日本 241韓国 169中国 33インドネシア 23インド 6世界平均 54資料:PPI 誌出典:日本製紙連合会ホームページhttp://www.jpa.gr.jp/ja/about/seishi/index.html 日本の生産量は世界全体の約10%程度で,一人当たりの消費量でも世界第5位となっています.上位国は林業国というイメージの国が多く,製紙業が盛んであることがうかがえます. さて,本題の「紙」のリサイクルです.まず,「紙」廃棄物の規制ですが,「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)」により「紙くず」と定められているもの以外は,容器包装廃棄物に該当し,容器包装リサイクル法の対象となると考えられます. 廃掃法における「紙くず」とは産業廃棄物となる,パルプ,紙又は紙加工品の製造業,新聞業(新聞巻取紙を利用して印刷発行を行うものに限る),出版業(印刷出版を行うものに限る),製本業及び印刷加工業に関わるもの並びにPCBが塗布されたものと,定義されています(施行令第2条第1項). 一方,容器包装リサイクル法は家庭から排出される一般廃棄物に含まれる容器包装廃棄物のリサイクルを趣旨としており,産業廃棄物については再商品化義務の対象外としています. 上記の廃掃法における「紙くず」以外のものは産業廃棄物にはならず,一般廃棄物という位置づけとなり,容器包装廃棄物に該当する可能性があります.しかし,家庭から出る一般的な「紙くず」はあまり明確な定義はないようです. あくまでも個人的な見解ですが,全く同一の廃棄物であっても,発生場所や収集場所により定義が異なるような不可解な法体系は一度見直す必要があるように思えてなりません.この種の問題はあらゆる廃棄物に共通する問題です. ところで,「紙」のリサイクルは少なくともかなり昔からシステムとして,社会に根ざしていました.しかし,状況は近年大きく変化し,旧来の「古紙」回収システムはほとんど破壊されたと言っても過言ではありません.紙のリサイクルにおける問題点は名古屋大学の武田邦彦教授の以下の記事をご参照下さい.http://members.my.home.ne.jp/heartpage/txt/kami.txt システムが破壊された理由は簡単で,種々の「善意」による採算を度外視した回収の拡大により,需要と供給のバランスから成り立つ市場原理が破壊されたためです.過去24年の古紙価格の推移を見るとその破壊力は如何に大きいか,容易に想像できます.過去24年間の古紙価格の推移(単位:円/kg) 新聞低値 新聞高値 雑誌低値 雑誌高値 ダンボール低値 ダンボール高値 1979 16 39.5 11 38 17 38 1980 23 45 14 40 27 50 1981 18 24 10 16 20 27 1982 18 30 14 26 20 30 1983 25 33 20 30 27 33 1984 25 26 22 25 26 34 1985 18 25 13 21 18 27 1986 15 19 9 13 17 18 1987 16 17 11 16 21 24 1988 17 20 14 17 18 24 1989 16 18 11 14 17 18 1990 16 16 11 13 17 17 1991 16 18 13 14 17 18 1992 15 18 10 14 16 18 1993 14 15 7 10 14 16 1994 14 14 7 8 13 14 1995 14 14 7 9 13 15 1996 13 14 7 10 13 15 1997 11 14 5 7 10 13 1998 10 12 4.5 5 8.5 10 1999 10 11 4.5 7 7 8.5 20000 11 11 7 7 7.5 9 2001 9 11 5.5 7 6 9 2002 9 9 5.5 5.5 6 7 (出典:財団法人古紙再生促進センター資料) なお,古新聞に代表される「古紙」リサイクルと,容器包装リサイクル法による紙製容器包装のリサイクルは別ルートで再商品化されるので,直接の衝突はないと解釈されています. 現在,古紙類はほとんどが紙,板紙に再生されていますが,容器包装リサイクル法で分別収集される紙製容器包装類は,多種の材料の混合物であることから,製紙原料以外に古紙再生ボード,古紙破砕解繊物,溶鋼用鎮静剤などの新たな用途に再生されることとなります. また,次元の異なる問題ですが,紙は木材(チップ)から製造されていますが,パルププロセスでは,チップを構成しているセルロース分だけを取り出します.リグニン分は黒液として分離され,エネルギー源に使用されます.すなわち,チップは材料源だけでなくエネルギー源でもあります. 黒液(こくえき)についてはメルマガ第11号でも述べていますが,クラフトパルプ(化学パルプの一種)をつくるには,チップに薬品(「白液」)を加え,蒸解釜にて高温高圧下で蒸煮し,繊維をとり出します.このとき,繊維以外のリグニンなどが「白液」中に溶け出した溶液が「黒液」です. クラフトパルプ製造過程で得られる「黒液」(濃度20%程度)は,そのままでは燃料とはなりませんが,エバポレーター(蒸留器)で70%程度まで煮詰めると,回収ボイラーでの燃焼が可能となります. 「黒液」中の有機分を燃焼させ,発生するエネルギーを蒸気・電力に変換し,製紙工場内で利用しています.すなわち,「黒液」はパルプ製造過程で産まれる副産物による「バイオマス」エネルギーと位置付けることができます.(出典:日本紙共販 http://www.nipponpapersales.co.jp/dept_yoshi/kamidasu/kamidasu01.html#1_6) 安井至氏の「リサイクルの意義と実情」(http://edu.chemistry.or.jp/chemedu/osusume/p014-017.pdf)によると,再生紙の製造プロセスで古紙からセルロース分を取り出すためのエネルギーは,化石燃料に頼らざるを得ません.一方,二酸化炭素排出量の計算を行う場合には,黒液から排出される二酸化炭素は「バイオ起源」ということで,計算から除外されることになります. すなわち,紙の環境負荷を二酸化炭素排出量という指標で表現すると,再生紙の環境負荷はバージンパルプから製造した新紙よりも高いということになります.この例をみても,常に全体を把握しながら問題に処する必要があることを痛感します. |