これまで,「電池」,「ペットボトル」,「蛍光灯」,「アルミ缶」,「スチール缶」,「ガラス瓶」のリサイクルについて考えてきました.正直,考えれば考えるほど,「リサイクル」は本当に環境に良いことなのか,という素朴な疑問を感じています.
確かに「リサイクル」は大切な選択肢なのですが,「リサイクル」をすることにより,大量消費を継続しても環境の悪化は抑制できる,と感じたとすれば大きな誤解で,「リサイクル」は決して本質的な解決策ではないのかもしれません.
いずれにしても,当初予定していたテーマとして「プラスチック」,「紙」,「生ごみ」,「家電」,「パソコン」,「自動車」があるので,今後3ケ月位かけて最後まで考えたいと思います.このようなテーマの中で最近話題になっている「自動車」について考えたいと思います.
平成16年12月に「使用済自動車の再資源化等に関する法律」(自動車リサイクル法)の完全施行が予定されています.この法律で規制の対象となるのは国内で保有されている自動車7,000万台の大部分です.現時点における使用済自動車の流れは以下のとおりです.
販売(1年あたり) 日本製自動車新車販売 約563万台 外国製自動車新車販売 約 28万台 ------------------------------------- 合計 約591万台
廃棄(1年あたり) 使用済自動車 約400万台 中古車輸出 約100万台 ------------------------------------- 合計 約500万台
上記の中で約400万台の使用済自動車は以下の経路で全国で約5,000社ある解体業者に流れます.
ディーラー(約18,000社)経由 約25% 中古車専門店(約50,000社),整備業者(約80,000社)経由 約70% 最終ユーザーから直接 約 5% その他(路上放棄車は自治体経由)
解体業者以降の最終的な行き先は以下のとおりです.
部品としてリサイクル 約20~30% 素材としてリサイクル 約50~55% シュレッダーダスト 約20~25%
上記のシュレッダーダストは埋立て処分されており,部品および素材としてのリサイクル率は75~80%程度と推定されています.これたのシュレッダーダストの処分を行う場所である産業廃棄物最終処分場の逼迫による最終処分費の高騰と,鉄スクラップ価格の低迷による使用済自動車の逆有償化(処理費を払って引き渡す状況)となり,従来のリサイクルシステムが機能不全に陥っている,といことが背景にあります.
このような状況を打開するため「自動車リサイクル法」では以下の4項目を基本として対応策が立てられています.
①これまで静脈インフラを担ってきた現在の関係事業者の役割分担を前提としつつ,従来のリサイクルシステムが機能不全となる主要因であるシュレッダーダスト,及び新たな環境課題であるフロン類,エアバッグ類への対応を行う.これにより,市場原理に基づいた使用済自動車のリサイクル・適正処理の持続的な取組みの環境整備を図るとともに,自動車製造業者等における適正な競争原理が働く仕組みとする. ②使用済自動車から生じる最終埋立処分量の極小化を図る. ③不法投棄の防止に資する仕組みとする. ④既存制度との円滑な接合を図る(2003年10月1日から先行して施行されているフロン類回収破壊法はその枠組みを基本的に引き継ぎつつ,自動車リサイクル法の中で一体的に扱うこと等).
各項目の詳細は省略しますが,自動車の「リサイクル」費用については以下のようなことが決まっています.
①使用済自動車のリサイクル(フロン類の回収・破壊並びにエアバッグ類及びシュレッダーダストのリサイクル)に要する費用に関し,自動車の所有者(自動車を所有する法人も含まれる)にリサイクル料金の負担を求める. ②リサイクル料金の負担の時点は,制度施行後販売される自動車については新車販売時,制度施行時の既販車については最初の車検時まで(当初3年間)としている. ③所有者から徴収した費用は,自動車製造業者等の倒産・解散による滅失等を防ぐため,リサイクル料金は資金管理法人(第三者機関として指定:既存の公益法人の活用を想定)が管理.
実際の自動車所有者が支払うリサイクル料金は,各自動車メーカーが設定しますが,法制定当時,リサイクル料は1台あたり20,000円程度と予想されていました.しかし,各社が所有者負担の最小化に努力したことで,最終的に小型車は10,000円程度,軽自動車は9,000円程度になっています.
「リサイクル料金預託義務」は2005年1月1日から発生することになっており,資金管理法人として「財団法人自動車リサイクル促進センター」が指定されています.ちなみにリサイクル料金は以下の5項目で構成されています.
1.シュレッダーダスト料金 2.エアバッグ類料金 3.フロン類料金 4.情報管理料金 5.資金管理料金
個人的に興味深いのが1,2,3のリサイクル作業に要する費用以外の費用である「資金管理料金」と「情報管理料金」で,合計金額は新車登録時510円,車検時・廃棄時610円に決まりました.
促進センターには当初3年間で,約7,000万台分の資金が集ることになり,総額では約7,000億円(10,000円×7,000万台),そのうち,情報管理・資金管理費用は約400億円(約560円×7,000万台)にあると見込まれます.一方で,実際のリサイクル料金としての支払いは約380億円程度(9,500円×400万台)になるものと思われます(筆者の試算). この他,資金管理等に要するシステムのプログラム構築費用と施行準備に要した指定法人であるセンターの人件費等のイニシアルコストについて,自動車製造業者・輸入業者は50億円弱を負担するようです.
自動車の場合は台数も多いため,1台当りの費用が比較的少額と感じられても総額では極めて大きく,大金の動く世界であることは間違いありません.個人的には,民間委託で既存のシステムを転用すればシステム構築や管理費用の低減や,効率的な資金管理も可能という印象を受けます.
最後に各国における乗用車の使用状況についてのデータを示します.
保有台数 走行距離 車齢10年超 平均車齢 (万台) (km/年) (年)
日本 4,206 9,896 13% 5.84 米国 18,319 18,870 40% 8.30 英国 2,398 14,720 27% 6.20 ドイツ 4,191 12,600 23% 6.75 フランス 2,748 14,100 30% 7.50
(出典:http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g20328d01j.pdf)
日本は年間の走行距離が諸外国よりも短いにも拘らず,車齢10年超の車が非常に少ないことがわかります.米国と比較すると,日本での1台当りの平均走行距離は6万km弱,米国では約16万km,海外で最も短いドイツでも8万km弱であり,如何に短期間での買い替えが行われているかが理解できます.
海外の実績を見ても10年超の自動車の安全性が急減に落ちるとは思えません.できるだけ長い期間,自動車を利用できるようなシステムを構築できないものと思います.リサイクルの推進は大切ですが,使用済自動車の発生量を抑制することがより本質的な解決策と考えます.
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