今回は「ダイオキシン」について考えてみたいと思います.
「ダイオキシン」はポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の総称です.塩素の数や付く位置によっても形が変わるので,PCDDは75種類,PCDFは135種類あります. (出典:福井県ホームページ,http://www.erc.pref.fukui.jp/news/d00.html)
ダイオキシンが日本国内で意識され始めたのは,1997年に厚生省が焼却場排煙中のダイオキシン濃度を公表してからです.しかし,その毒性についてはベトナム住民や米軍に多くの被害者を出したダイオキシンを含む枯葉剤2,4,5-Tや2,4-D等の農薬で以前から問題となっていました.
いずれにしてもダイオキシンは意図的に製造されたものではなく,ある種の不純物として意図せずに発生しています.ちなみに発生源として,国内環境蓄積という観点からは農薬由来のものが主体と言われています.一方,現在の発生源はごみの焼却による燃焼工程等で,日本の年間発生量としては以下のような試算があります.
日本における発生源別ダイオキシン発生量 (g-TEQ/年)
発生源 排出量
燃焼工程
一般廃棄物焼却 4,300 産業廃棄物焼却 547~707 金属精錬 250 石油添加剤(潤滑油) 20 たばこの煙 16 黒液回収ボイラー 3 木材,廃材の焼却 0.2 自動車排出ガス 0.07
(小計) 5,140~5,300
その他
漂白工程 0.7 農薬製造 0.06
合計 5,140~5,300
(出所:ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン等)
ダイオキシン発生量の単位TEQは毒性等量(Toxicity Equivalency Quantity)の意味で,ダイオキシン類の中で最も毒性の強い2,3,7,8- 四塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)の毒性の強さを基準(1)として,他の異性体の毒性の強さを相対的に表した換算係数(毒性等価係数:TEF)を決め,個々の異性体ごとにその存在量に毒性等価係数を乗じて,毒性換算した毒性量を算出し,すべての異性体について毒性量の総和を算出して求めた値です.
ダイオキシンは,毒性が強い物質であり,かつ環境ホルモンでもあることから,平成11年7月に成立,平成12年1月に施行されたダイオキシン類対策特別措置法により厳しく環境への放出が制限されました.
本措置法を踏まえてダイオキシン類による大気の汚染等に係る環境基準として,平成11年12月の環境庁告示で以下の基準値が定められています.
媒体 基準値
大気 0.6pg-TEQ/m3以下 水質 1pg-TEQ/L以下 水底の底質 150pg-TEQ/g以下 土壌 1,000pg-TEQ/g以下
(環境省ホームページhttp://www.env.go.jp/kijun/dioxin.html)
ダイオキシンの摂取限度として日本ではWHO勧告1~4pg/kg/日の上限である4pg/kg/日を採用しています.この数値は人が一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される体重1kg当たりの1日当たり摂取量で,例えば体重50kgの人の場合には200pg/日という数値になります.
ところで,ダイオキシンで最も話題となるのが廃棄物の焼却に伴う発生です.日本では廃棄物処理は焼却処理が中心になっており,世界一高い焼却率になっています.また,焼却施設数に至っては諸外国と比較してまさに桁違いの数の施設を有しています.
ちなみに焼却処理以外の方法としては,「焼却以外の中間処理」あるいは「埋立て」があります.焼却以外の中間処理施設としては粗大ごみを処理(破砕,圧縮など)する施設(粗大ごみ処理施設),資源化を行うための施設(資源化施設),堆肥を作る施設(高速堆肥化施設)などがあります.
都市ゴミ(一般産業廃棄物) 焼却率(%)
日本 (1993) 73 デンマーク (1995) 56 フランス (1993) 49 スウェーデン (1994) 41 旧西ドイツ (1990) 28 オランダ (1994) 26 アメリカ (1994) 16 イギリス (1990) 13
(出典:OECD Environmental Data 1997,p.157)
ゴミ(一般産業廃棄物)焼却実態
焼却施設数 発生量 焼却量(千トン/年)
日本 1,854 50,300 38,000 アメリカ 148 207,000 32,900 カナダ 17 23,200 1,200 ドイツ 53 43,500 11,000 オランダ 11 12,000 2,800 スウェーデン 21 32,000 1,700 (出典:法研「ダイオキシン汚染」)
最近,新たに発生しているダイオキシン類の8割が焼却炉からのものであると報告されています.そこで焼却設備については厳しい技術基準が定められ,ダイオキシンの発生をほとんど伴わないものになってきました.このような対策の成果もあってか,ダイオシン類の食品を通じた摂取量も徐々に低下しています.
ダイオキシン類の1日摂取量の経年変化
昭和52 昭和57 昭和60 平成4 平成7 平成10
ダイオキシン類 8.18 5.32 5.58 2.07 2.30 2.72 コプラナーPCB 4.43 2.96 3.14 1.23 1.15 1.80 PCDDs+PCDFs 3.75 2.36 2.44 0.84 1.15 0.92
(出典:厚生科学研究「食品中のダイオキシン汚染実態調査研究」)
蛇足ですが,何となく昔ながらの焚き火も禁止されているように考えておられる方も多いのではないかと思います.しかし,焼却禁止には以下のような例外規定が定められています.
①法律に定められた処理基準によって行う廃棄物の焼却, ②森林病害虫等防除法に基づく病害虫の付着した木の枝の焼却及び家畜伝染病予防法に基づく伝染病に罹患した家畜の死体の焼却, ③国又は地方公共団体がその施設の管理を行うために必要な廃棄物の焼却, ④震災,風水害,火災などその他の災害の予防,応急対策または復旧のために必要な廃棄物の焼却, ⑤風俗習慣上または宗教上の行事を行うために必要な廃棄物の焼却, ⑥農業・林業または漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却, ⑦たき火その他日常生活を営むうえで通常行われる廃棄物の焼却であって軽微なもの.
すなわち,キャンプファイヤー等は常識の範囲で,煙や臭いが近所の迷惑にならない程度の少量の焼却であれば現在でも問題ありません.
ダイオキシン問題では特性や挙動を含め,明らかになっていない点も多々あり,様々な議論が行われています.一方,発生原因である廃棄物焼却は私たち自身の生活と密接に関連することから,ダイオキシン問題では被害者でも加害者でもあることを十分に理解する必要があります.
いずれにしても,本問題が廃棄物の大量発生と対処療法的な処理を前提とした昨今の生活様式を見直す契機となることを切に願っています.
|