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No.072:環境(第20回)
まとめ
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No.071:環境(第19回)
ガラスびん
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No.070:環境(第18回)
スチール缶
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No.069:環境(第17回)
アルミ缶
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蛍光灯
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No.067:環境(第15回)
ペットボトル
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電池
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リサイクル
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No.064:環境(第12回)
ダイオキシン
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No.063:環境(第11回)
PCB
No. 061 update 2004.02.15 PDF版(153.3 kbyte)
今回は「酸性雨」について考えてみたいと思います. 酸性雨は,「化石燃料などの燃焼で生じる硫黄酸化物や窒素酸化物などが大気中に取り込まれて生じる酸性の降下物で,通常pH(水素イオン濃度指数)5.6以下の雨」と定義されています. 「酸性雨」以外に酸性を示す身近な例は以下のようなものがあります.私たちは,日常生活の中でpHが5以下のものを様々な形で摂取していることになります.胃液 1.8〜2.0 レモン汁 2.0〜3.0 梅干 2.0前後 食酢 2.4〜3.0 ワイン 3.0〜3.7 ビール 4.0〜4.5 醤油 4.5〜4.9 炭酸水 4.6 煎茶 5.9 ところで,溶液が「酸性」がどうかを調べる方法として様々なものがあります.最も身近な方法はリトマス試験紙(妙に懐かしさを感じる単語ですが)を使う方法です.リトマス試験紙は,「酸性」の水溶液につけると赤に,アルカリ性では青に変わります.pHを数値で理解することはできませんが,酸性かアルカリ性かの判断には非常に便利です. 「酸性雨」の具合を数値で理解しようとする場合,pHという数値が良く出てきます.pHは英語読みでは「ピーエッチ」,ドイツ語読みでは「ペーハー」と呼んでいます.ちなみにpHの概念はデンマーク人の提供した考え方であり,ヨーロッパが発祥の地だったことから「ペーハー」と呼ぶことも多いと思いますが,現在は「ピーエッチ」を用いることになっています. pHは液体の酸性やアルカリ性の程度を示す単位です.数値としては0〜14の範囲にあり,真ん中のpH7を中性と定義しています.この数値が小さいほど「酸性」が強く,大きいほど酸性が弱く(「アルカリ性」が強く)なります. pH値を用いる際に注意する必要があるのはpH値は対数尺度での表現になっていることです.具体的にはpHが1違うと,「酸性」の原因となる「水素イオン」という成分の濃度が10倍違うことになります. 以上の定義から「酸性雨」とは一般論としてはpHが7より小さい数値を示す雨ということになります.しかし,自然水も実際には空気中の炭酸ガスを吸収し,弱い酸性を示します.このpHが5.6付近であることから,先のような定義になっています. さて,日本の雨水のpHとしては以下のような値が示されています.データポイント数が多いのですが,読者の皆さんが身近にお感じなる地名は様々と思いますので,全てのデータを掲載しました.これらのデータを見ると平均値は4.7〜4.9程度となっています. 日本の雨水は自然水のpH5.6と比較してpHで1程度酸性化していることになりますが,H5以降のデータを見る限り比較的安定しています.日本の降水中pHの年平均値 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 利尻 4.9 5.3 5.3 5.0 4.9 5.0 4.8札幌 5.1 4.7 4.6 4.6 4.6 4.7 4.7竜飛岬 − 4.7 4.9 4.7 4.8 4.9 4.8尾花沢 − 4.8 4.8 4.7 4.7 4.8 4.8佐渡 4.7 4.7 4.7 4.6 4.8 4.8 −佐渡関岬 − − − − − − 4.8新潟 4.6 4.5 4.6 4.6 4.7 4.9 4.7新津 4.6 4.6 4.7 4.5 4.7 4.7 4.7立山 − 4.7 4.8 4.7 4.7 4.9 4.7輪島 − 4.6 4.6 4.6 4.7 4.8 4.7越前岬 − − 4.5 4.5 4.6 4.6 4.5八方尾根 − 4.7 4.9 4.8 4.8 5.0 4.9京都弥栄 − 4.6 4.7 4.5 4.8 4.9 4.8隠岐 4.9 5.1 4.8 4.7 4.8 4.9 4.7松江 4.9 4.8 4.7 4.6 4.9 4.9 4.8益田 − 4.7 4.6 4.5 4.7 4.7 −蟠竜湖 − − − − − − 4.8八幡平 − 4.9 4.8 4.7 4.8 5.0 4.9箟岳 5.2 4.8 4.8 4.8 4.9 5.0 5.0仙台 5.3 5.3 5.1 5.1 5.2 5.2 5.2尾瀬 − − 5.0 4.8 4.8 5.0 5.0筑波 4.3 4.5 4.7 4.8 4.9 5.0 4.9鹿島 4.9 5.6 5.7 5.8 5.8 5.9 5.8日光 − − − − 4.9 5.2 5.0赤城 − − − 4.6 4.7 4.7 4.6市原 5.2 5.5 5.3 5.4 5.0 5.3 5.4東京 5.2 5.0 5.2 5.4 5.4 5.8 6.0小笠原 5.1 5.3 5.3 5.4 5.6 5.2 5.3川崎 5.1 4.7 4.8 5.0 4.8 4.8 5.0丹沢 − − 4.8 4.8 4.9 5.0 5.1伊自良湖 − − − − − − 4.6犬山 4.7 4.8 4.7 4.7 4.8 4.8 4.7名古屋 5.3 5.3 4.7 4.7 5.0 4.9 5.1潮岬 − 4.6 4.6 4.5 5.2 5.1 4.8足慴岬 − 4.6 4.6 4.6 4.6 4.7 5.0梼原 − − − − − − 4.6京都八幡 4.7 4.7 4.8 4.7 4.8 4.9 4.9大阪 4.8 4.5 4.7 4.7 4.9 4.9 4.8尼崎 5.0 4.8 4.8 4.7 4.9 5.0 4.9倉敷 4.7 4.7 4.6 4.5 4.7 4.6 4.8倉橋島 4.6 4.4 4.6 4.5 4.6 4.5 4.7宇部 5.9 5.7 5.8 5.6 5.7 6.0 6.0大分久住 − 4.5 4.7 4.7 5.0 4.9 4.8北九州 4.8 5.2 5.2 5.2 5.2 4.9 5.2筑後小郡 4.9 4.7 4.8 4.8 4.9 4.8 4.8大牟田 5.3 5.5 5.5 5.5 5.5 5.4 5.7対馬 4.8 4.7 4.9 4.7 4.8 4.8 4.9五島 − 4.8 4.9 4.7 4.8 4.9 4.9屋久島 − 4.6 4.6 4.7 4.8 4.8 4.7奄美 5.5 5.0 5.1 5.5 5.3 5.2 5.3沖縄国頭 − 4.9 4.9 5.1 5.1 5.0 5.3辺戸岬 − − − − − − 4.9 最大値 5.9 5.7 5.8 5.6 5.8 6.0 6.0最小値 4.6 4.4 4.5 4.5 4.6 4.6 4.5平均値 4.9 4.8 4.8 4.7 4.8 4.9 4.9標準偏差 0.3 0.4 0.3 0.3 0.3 0.3 0.4−:未測定出典:環境省資料 ところで,酸性雨の問題は特にヨーロッパで1980年代に大きな問題として取りあげられてきました.国連のブルントランド報告では「ヨーロッパでは酸性雨が森を殺している」という糾弾がなされていました.このような感情的な糾弾から20年近い月日が経過し,問題点の所在も徐々に明確になってきました. 1985 1990 1995 1996 1997 1998 1999 アイスランド 5.41 5.38 5.55 5.46 5.55 5.88 5.73アイルランド 5.38 5.20 5.04 5.00 4.96 − −イギリス − 4.87 4.84 4.72 4.81 5.01 5.30オーストリア 4.38 4.50 5.06 4.92 5.23 4.96 4.85オランダ − − 5.14 5.34 5.23 5.08 5.42スイス 4.77 − 5.10 5.06 5.19 5.22 5.16スウェーデン 4.25 4.28 4.39 4.40 4.48 4.57 4.55 4.47 4.60 4.81 4.77 4.97 4.92 4.88スペイン − 5.72 6.72 5.98 6.15 6.44 6.03スロバキア − − 4.67 4.30 4.43 4.47 4.42チェコ 4.46 4.34 4.54 4.53 4.64 4.70 4.74 − 4.37 4.47 4.43 4.46 4.66 4.65デンマーク 4.53 4.48 4.68 4.69 4.70 4.82 4.75ドイツ 4.37 4.64 4.75 4.68 4.81 4.75 4.84 − − 4.59 4.83 4.77 4.82 4.89ノルウェー 4.24 4.37 4.48 4.42 4.50 4.50 4.59 4.48 4.61 4.75 4.78 4.92 4.83 4.93ハンガリー 5.09 4.99 4.83 5.69 5.94 5.83 5.73フィンランド 4.55 4.57 4.61 4.66 4.72 4.77 4.68フランス 4.41 4.68 4.97 4.65 4.96 4.96 5.08ポルトガル 5.12 5.41 5.92 5.45 5.33 5.33 5.14 1995 1996 1997 中国 青島 4.08−7.20 3.72−7.83 3.46−8.00 南京 3.90−8.14 3.80−7.98 3.90−8.26 広州 3.83−7.73 3.62−6.88 3.78−7.35 重慶 3.08−8.06 3.30−7.66 3.28−8.70 長沙 2.92−5.25 3.00−5.60 3.01−3.74 出所:欧州監視評価計画http://www.nilu.no/projects/ccc/network.html中国環境年鑑編集委員会・中国環境年鑑1998出典:環境省ホームページhttp://www.env.go.jp/doc/toukei/contents/es15/es150811.xls上記のデータをまとめると以下のようになります:○日本における雨水のpHは5前後で推移しており,近年では目だったpHの低下は観測されていない;○ヨーロッパにおける雨水のpHは,徐々に改善している例が多い; ○中国では極めて酸性度の高い雨水が観測されている例があるが,逆にアルカリ性のケースも報告されており,実態が明確にはなっていない. 酸性雨の問題は,ヨーロッパでは様々な対策が取られた結果,徐々に改善しているようです.一方,アジア,特に中国では急速な工業化の進展に伴い,十分な排ガス処理設備を備えていない火力発電所等から大量の二酸化窒素,二酸化硫黄が排出されており,雨水の酸性化が急速に進展している可能性があります. 酸性雨は,大気汚染問題との関係が深く,また使用するエネルギー源とも密接に関係しています.化石燃料の中でも石炭や石油を燃やせば酸性雨の原因物質となる二酸化硫黄や二酸化窒素が多く発生します.天然ガスの場合には原因物質の負荷が軽減されます. また,雨水の酸性度が強くなった場合の環境への影響は必ずしも明確ではありません.しかし,極端な酸性雨は植物の成長等にも影響を与える可能性があります.したがって,酸性雨の原因となるような排出物を抑制するかが重要なポイントとなります. 日本では,排ガス処理設備等の整備や,酸性雨の原因物質の含有の少ない天然ガス等の利用の拡大により,自国の排出物による酸性雨の可能性は比較的小さくなってきています.一方,隣国の中国では,今後,酸性雨が大きな問題となる可能性があります.この影響は国境を越えて日本にも影響を与える可能性があります. この意味でも「酸性雨」の問題では国内のみではなく,海外の情勢にも十分留意することが必要と考えています.
[文責:スリー・アール 菅井弘]
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