No.032:エネルギー(第16回)

燃料電池

No.031:エネルギー(第15回)

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No.030:エネルギー(第14回)

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No.029:エネルギー(第13回)

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No.028:エネルギー(第12回)

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太陽光発電

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地熱発電

No. 058 update 2004.01.01 PDF版(140.3 kbyte)

年始のご挨拶(2004年)

日本の物質フロー

 新年明けましておめでとうございます.

 2001年9月より発行を始めましたメルマガも58号となりました.これまで「将来の社会像」,「エネルギー」,そして昨年10月より「環境」について考えてきました.昨年の年始に述べさせていただいた内容は,1年を経た現在も全く変わらない状況であるばかりか,益々住み難い世の中になってきているように感じています.

 日本では国の運営に直接関係する重要な問題があまり大局的な視点からは議論されていません.昨今の「年金」問題にしても国民負担率を○○%以下に抑制するという場当たり的な対応に終止し,急速に高齢化社会を迎える日本における「年金」あるいは「社会保障」の全体像を全く提示することなく議論されているように思います.これらの曖昧な結論は将来「世代間」の大きな争いの火種になる可能性があります.

 「イラクへの自衛隊派遣」も日本の中東地域での発言権の確保が真の目的であるのならば,まさに「エネルギー」問題として考える必要があります.極論をすれば「エネルギー」問題がなければ「イラク戦争」は起こらなかったとも言えます.さらに進んで,日本として安全保障を「国連」あるいは「米国」の何れを主体に選択するか,という根本的な議論も不可欠と思います.


 「エネルギー」や「環境」問題についても同様で,包括的な議論が十分に行われてはいません.どちらかというと「感情的」な議論ばかりが目につきます.しかし,夢のエネルギー源が現時点で存在していない状況にあり,より現実を見据えた将来のエネルギー源の確保について真剣に取組む必要があります.

 このような議論では「データ」が不可欠です.しかし「データ」はある意味で一つの真実を表わしていますが,その利用,例えばデータ選択の仕方によっては全く逆の結論を出すことも可能です.データが「長期」のものか「短期」のものか,「全体」を理解できるものか「部分」について示すものか,等を十分に考察する必要があります.

「データ」の示す意味を自分で考えてみる習慣が非常に大切と思います.本メルマガはできるだけ,データを中立的に扱い,結論を導くためのデータ収集はできるだけ避けたいと考えていますが,現実には私自身の個人的な潜入感を完全に解消することは難しいと感じています.


 さて,具体的に「環境」問題を考える上で最も重要な事項の一つは「物質フロー」という概念です.もちろん地球規模での物質フローの問題もありますが,身近なのは国内の「物質フロー」です.これらのデータが環境省が公開しており参考になります.

 
国内物質フローの入口側

自然界からの資源採取    18.4億トン
 国内における資源採取  (11.2億トン)
 海外における資源採取  ( 7.2億トン)
製品等輸入          0.7億トン
循環利用量(リサイクル)   2.2億トン
---------------------------------------------------- 
合計            21.3億トン

国内物質フローの出口側

輸出             1.3億トン
新たな蓄積         10.8億トン
エネルギー消費        4.2億トン
食料消費           1.3億トン
最終処分           0.6億トン
減量化            2.4億トン
自然還元           0.8億トン
循環利用量(リサイクル)   2.2億トン
---------------------------------------------------
合計            23.6億トン

*出口−入口の差は水分取込みに起因する物質量の増加に相当します.

(出典:平成15年版環境白書)


 これらのデータから,いかに大量の物質が流通しているか理解する必要があります.物質フローの総投入量の入口側21.3億トンの内訳を見ると7.9億トン(約37%)が海外からの資源および製品の輸入に相当します.残りの物質フローのうち2.2億トン(約11%)が国内での物質循環であり,11.2億トン(約52%)は国内資源の新たな採取によるものです.

 一方,出口側では循環される2.2億トン(約11%)と輸出される1.3億トン(約5%)以外は国内に滞留します.その内訳は4.2億トン(約20%)がエネルギー消費,残1.3億トンが食料消費,2.4億トンが減量化,0.8億トンが自然還元,0.6億トンが最終処分となっています.そして,残りの10.8億トン(約50%)が国内蓄積の純増加です.


 これら「物質フロー」から溢れ出た流れの一つが「廃棄物」として最終処分されることになります.このような最終処分場の残余容量は以下のとおりとなっています. 

最終処分場残余容量(1999年4月1日現在)
         (単位:m3)

遮断型処分場     35,005 (39,527)
安定型処分場総数  約0.84億m3(約0.83億m3)
管理型処分場総数  約1.06億m3(約1.27億m3)
内海面埋立     約0.36億m3(約0.37億m3)
計         約1.90億m3(約2.11億m3)

( ) 内数字は1998年度
(出典:産業廃棄物行政組織等調査(1999年4月1日現在))


 年間最終処分量を0.6億トン,廃棄物の平均比重を1とすると,現在の処分場能力は約3年分しかありません.逆に言えば毎年0.6億m3の収容能力を有する処分場を永遠に新設し続けることができなければ日本は廃棄物で溢れる国になってしまいます.

 最近,メディアでは「不法投棄」の問題を盛んに糾弾していますが,「不法投棄」の問題は「廃棄物」問題の一面でしかありません.処分場の量的不足は明らかであり,廃棄物問題を大量発生する社会構造自体を見直すことなく解決することは困難です.


 話は変わりますが,平成14年度の国家当初予算は約81兆円で,公債金は30兆円でした.一方,支出の中で国債費は17兆円です.約450兆円程度の国残高を増やさないという最低限の対応をするためには20兆円程度の「増税(増収)」か「節約(支出削減)」をすれば良いことになります.

 解決策はあるし,極めて明瞭です.普通の会社や家庭が同様な問題に直面すれば間違いなく「節約」を実行します.しかし,どういう訳か日本という「国」ではこの常識は通用しません.最近の動きをみると「節約」はできるだけしないで,「増税」でバランスさせ,できるだけ支出だけは維持しようとしています.

 廃棄物処分場の場合も同様で,「モノ」の消費量低下に結びつく可能性のある「廃棄物」発生量の削減ではなく,「リサイクルの推進」や「処分場の新設」が最優先課題となっているように思えてなりません.

 「リサイクルの推進」は,確かに製品としての「廃棄物」発生量低下の効果があり,一見すると極めて有効と思われますが,リサイクルの過程で新たなエネルギーや原料の投入,そして新たな廃棄物の発生をもたらします.本来,3R(リデュース(削減),リユース(再使用),リサイクル)の中で「リサイクル」は,あくまでも最後の手段です.


 結局のところ,今の日本に最も必要なのは「節約」の概念なのかもしれません.短期的に「節約」は「売上」の低下に直結しますが,「モノ」ではなく「人」に,「付加価値の少ない大量のモノ」から「付加価値の大きな少量のモノ」に投資をすれば「経済」的なデメリットもある程度が抑制できます.

 何れにしても個性溢れた「人」の「知恵」が重要です.日本が国際社会の中で生き延びるためには世界で通用する「人」の育成が最大の課題と思えてなりません.


 新年早々,長々とした文章となりましたことお詫び申し上げます.次号より昨年からの継続しております「環境」について引き続き考えていきたいと思います.

 本年も宜しくお願い申し上げます.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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