今回は,「ブラジル」のエネルギー事情について考えたいと思います.まず,ブラジルの基礎データは以下のとおりです.人口 1億6,772万人(2000年) (日本の1.4倍)面積 851.2万km2 (日本の22.5倍)国民総所得 6,100億5,800万ドル (日本の13.5%)1人当たりの国民総所得 3,580ドル (日本の10%)輸入額 585億3,200万ドル(2000年) (日本の15.4%)輸出額 550億8,600万ドル(2000年) (日本の11.5%)二酸化炭素排出量 1.8t/人(1998年) (日本の20%)自動車台数 1,563万台(1997年) (日本の22.3%)(出典:集英社,世界情報アトラス2003)参考データ1: 日本 中国 韓国 台湾 人口 1億1,628万人 12億6,583万人 4,614万人 2,239万人 面積 37.78万km2 960.78万km2 9.94万km2 3.62万km2国民総所得 4兆5191億ドル 1兆629億ドル 4,210億ドル 2,692億ドル 国民総所得/1人 3万5,620ドル 840ドル 8,910ドル 1万2,360ドル輸入額 3,795億ドル 2,251億ドル 1,605億ドル 1,400億ドル輸出額 4,792億ドル 2,493億ドル 1,723億ドル 1,484億ドル二酸化炭素排出量 9.0t/人 2.5t/人 7.9t/人 - 自動車台数 7,003万台 1,283万台 1,043万台 522万台参考データ2: アメリカ カナダ ドイツ フランス 人口 2億8,142万人 3,075万人 8,202万人 5,889万人面積 962.84万km2 997.61万km2 35.7万km2 55.12万km2国民総所得 9兆6,015億ドル 6,498億ドル 2兆637億ドル 1兆4,383億ドル国民総所得/1人 3万4,100ドル 2万1,130ドル 2万5,120ドル 2万4,090ドル輸入額 1兆2,576億ドル 2,448億ドル 5,028億ドル 3,054億ドル輸出額 7,811億ドル 2,766億ドル 5,515億ドル 2,981億ドル 二酸化炭素排出量 19.9t/人 15.3t/人 10.1t/人 6.3t/人自動車台数 2億1,549万台 1,701万台 4,474万台 3,249万台参考データ3: イギリス ロシア スウェーデン人口 5,950万人 1億4,549万人 887万人面積 24.3万km2 1707.5万km2 45万km2国民総所得 1兆4,595億ドル 2,410億ドル 2,407億ドル国民総所得/1人 2万4,430ドル 1,660ドル 2万7,140ドル輸入額 3,370億ドル 455億ドル 728億ドル輸出額 2,841億ドル 1,052億ドル 869億ドル二酸化炭素排出量 9.2t/人 9.8t/人 5.5t/人自動車台数 3,093万台 2,193万台 426万台 ブラジルは国民一人当りの所得ではロシアや中国よりも大きな規模になっています.他の工業国に比べると国民一人当りの所得はかない小さいという状況ですが,世界第10位の経済大国であり,経済中進国という位置付けになるのかもしれません. ブラジルは日本との繋がりも深く,現在,日系人は120万人を超え,4世,5世の時代を迎えているそうです.南米の中でもサッカーのワールドカップなどを通じて身近に感じられる国の一つかもしれません.その反面,ブラジルの政治,経済,産業やエネルギー事情については日本国内ではほとんど知られていないように思います.ブラジルを含む各国の一次エネルギー消費構成(2001年)は以下のとおりです. ブラジル スウェーデン 露 英 仏 独 加 米 日 中 韓 石油 25 30 19.0 34.0 37.4 39.3 32.0 40.0 48.0 28.2 52.6 石炭 - 4 17.8 18.0 4.3 25.2 10.5 24.8 20.0 61.4 23.3天然ガス - 1 52.2 38.3 14.3 22.3 23.8 24.8 13.8 3.2 10.6原子力 - 31 4.8 9.1 37.0 11.5 6.3 8.2 14.1 0.5 13.0水力他 67 34 6.2 0.7 7.1 1.7 27.3 2.2 4.0 6.8 0.5(出典:BP統計(2001,2002))(出典:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jseg/r_new/committee/daiei/takatama.htm) ブラジルのエネルギー事情に関してはほとんど日本には紹介されていないようです.大使館のホームページにもエネルギー事情に関する詳細なデータは掲載されていませんでした.そこで今回は,ネット上で見つけた高玉氏(http://wwwsoc.nii.ac.jp/jseg/r_new/committee/daiei/takatama.htm)の資料を参考とさせていただきました. 高玉氏の資料によるとブラジルのエネルギーの現状として,エネルギー自給率は,77.4%(1998年)であり,エネルギーの国内生産量は水力が全体の43%を占め,石油(25%),バイオマス(24%)の順であると報告されています.住宅の電化率は93%で,LPG・都市ガスの普及率は96%と紹介されています.各国のエネルギー自給率(単位:%,1999年) 原子力含む 原子力除くブラジル 77.4(1998年) -スウェーデン 67.5 -ロシア 158 -日本 20 4イギリス 123 112 フランス 50 10 ドイツ 39 26カナダ 152 - アメリカ 75 65中国 95 95韓国 17 3 エネルギー消費の39%を占める電力供給については,鉱山エネルギー省(MME)と外局の国家電力規制庁(ANEELL)が担当官庁となっています.ブラジルにおける発電電力量の約60%はEletrobrasグループとイタイプ水力公社が供給し,残りの約40%は州営や地方公共団体の発電事業により供給されています. 発電の主力は水力ですが,石油,石炭,天然ガスの個別データは見つけることができませんでしたが火力全体では3.6%程度となっています.この他,自家発電も多く利用されています.原子力発電所はELETRONUCLERのアングラ1号(67万kW)と2001年に新たに営業運転を開始したアングラ2号機(131万kW)が稼動中です. ブラジルの発電電力構成(2000年) ブラジル スウェーデン ロシア イギリス フランス ドイツ 日本石油 (火力) 1.9 4.8 1.5 1.4 0.8 14.7石炭 3.6 2.1 19.1 33.4 5.8 52.7 23.5天然ガス 0.3 42.4 39.4 2.1 9.3 22.1原子力 1.0 47.2 14.4 22.9 77.5 29.9 29.8水力他 89.1 48.6 19.2 2.8 13.2 7.3 9.9 (出典:OECD/IEA,http://www.jepic.or.jp/overseas/data/index03.html,http://www.jnc.go.jp/park/front/jnc_data/data/swe_index.htm#primary_energy) 以上,ブラジルのエネルギー事情をまとめると以下のようになります.(1)エネルギー自給率は80%弱と高い(2)一次エネルギー供給は水力,バイオマス等の再生可能エネルギーが主力(3)エネルギー消費の約40%を占める電力生産も水力が中心(4)石油の自給率は約50%と比較的高い(5)エタノールを用いたバイオマス燃料の利用が活発 ところで,ブラジルでは1970年代から砂糖キビから作ったエタノールが乗用車の燃料として使用されています.自動車燃料用エタノールはE○○と表示され,例えばE10燃料はエタノール10%/ガソリン90%の混合燃料です. エタノール混合率が低い場合には通常のガソリン車でも利用できますが,エタノール濃度が高いE85燃料やE96燃料と呼ばれる燃料はエタノール専用車や米国で利用されているようなFFV(Flexible-Fuel-Vehicle)で利用されます.ちなみにブラジルでは400万台以上の自動車で代替エタノールE96が使用されており,600万台以上の自動車が22%のエタノールを混合したガソリンE22で走行しています. 日本では自動車燃料用のエタノールは一般的ではなく,アルコール燃料としては資源・エネルギー庁が開発・販売している「M(メタノール)85」がエコステーションで「試験的」に販売されています.また,官庁,業界からの風当りの強い「ガイアックス」という商品名のアルコール系燃料が販売されています. 話は変わりますが,日本で最も注目されている未来型自動車は「燃料電池」自動車(充電ではなく発電機能を備えた電気自動車)です.「燃料電池」は,電力を発生させるための燃料源として「水素」を常に供給することで動作しますが,「水素」をどのように得るかが大きな課題です. 「水素」は水の電気分解で得ることができるため資源的には無尽蔵となりますが,「水」を燃料とする道筋の確立は将来的な課題です.そこで,現在は「水素」そのものを搭載するか,車上で天然ガス,ガソリン,アルコール等を「改質」し「水素」を得ることが考えられています. 「水素」と「バイオマス」を結びつければ将来は国産燃料による自動車用燃料の確保も夢ではありません.最終的な到達目標としては理解できますが,現時点で私個人としては「燃料電池」自動車の商用化以前にガソリンのみでなくアルコールなどの様々な燃料に対応できるような多種燃料対応型自動車であるFFV(Flexible-Fuel-Vehicle)の国内での普及が実現できないものかと考えています. FFVの導入過程で多種燃料に対応できる燃料スタンド等のインフラも整備でき,将来の本格的な「燃料電池」自動車時代への無理のない移行も実現できるのではないかと思います.「燃料電池」を始めとする「水素」エネルギーの将来的な魅力は理解できますが,時間軸を考慮した冷静な判断が不可欠と考えます. |