No.102:風力発電(第2回)

風力発電(その2)

No.101:風力発電(第1回)

風力発電(その1)

No.100:年始のご挨拶(2006年)

「年始にあたって」

No.099:水素エネルギー・燃料電池(その4)

燃料電池

No.098:水素エネルギー・燃料電池(その3)

水素の製造

No.097:水素エネルギー・燃料電池(その2)

水素エネルギーの位置づけ

No.096:水素エネルギー・燃料電池(その1)

水素生産および需要の現状

No.095:バイオマス(第7回)

バイオマス利活用例(3)

No.094:バイオマス(第6回)

バイオマス利活用例(2)

No.093:バイオマス(第5回)

バイオマス利活用例(1)

No. 048 update 2003.08.01 PDF版(23.5 kbyte)

エネルギー(第32回)

ブラジル

 今回は,「ブラジル」のエネルギー事情について考えたいと思います.

まず,ブラジルの基礎データは以下のとおりです.

人口             1億6,772万人(2000年)       (日本の1.4倍)
面積             851.2万km2          (日本の22.5倍)
国民総所得        6,100億5,800万ドル     (日本の13.5%)
1人当たりの国民総所得   3,580ドル             (日本の10%)
輸入額                 585億3,200万ドル(2000年)  (日本の15.4%)
輸出額                  550億8,600万ドル(2000年)  (日本の11.5%)
二酸化炭素排出量    1.8t/人(1998年)       (日本の20%)
自動車台数             1,563万台(1997年)        (日本の22.3%)

(出典:集英社,世界情報アトラス2003)


参考データ1:    日本      中国           韓国      台湾      

人口        1億1,628万人  12億6,583万人  4,614万人    2,239万人 
面積        37.78万km2     960.78万km2    9.94万km2    3.62万km2
国民総所得     4兆5191億ドル  1兆629億ドル   4,210億ドル   2,692億ドル 
国民総所得/1人    3万5,620ドル   840ドル        8,910ドル    1万2,360ドル
輸入額            3,795億ドル    2,251億ドル    1,605億ドル   1,400億ドル
輸出額             4,792億ドル    2,493億ドル    1,723億ドル   1,484億ドル
二酸化炭素排出量  9.0t/人        2.5t/人        7.9t/人     - 
自動車台数        7,003万台      1,283万台    1,043万台     522万台

参考データ2:   アメリカ    カナダ     ドイツ     フランス 

人口        2億8,142万人  3,075万人   8,202万人   5,889万人
面積        962.84万km2  997.61万km2  35.7万km2   55.12万km2
国民総所得     9兆6,015億ドル 6,498億ドル  2兆637億ドル  1兆4,383億ドル
国民総所得/1人    3万4,100ドル   2万1,130ドル  2万5,120ドル  2万4,090ドル
輸入額            1兆2,576億ドル 2,448億ドル    5,028億ドル   3,054億ドル
輸出額             7,811億ドル    2,766億ドル    5,515億ドル   2,981億ドル    
二酸化炭素排出量  19.9t/人       15.3t/人       10.1t/人      6.3t/人
自動車台数        2億1,549万台   1,701万台      4,474万台     3,249万台

参考データ3:   イギリス    ロシア         スウェーデン

人口        5,950万人   1億4,549万人   887万人
面積        24.3万km2   1707.5万km2  45万km2
国民総所得     1兆4,595億ドル 2,410億ドル    2,407億ドル
国民総所得/1人    2万4,430ドル   1,660ドル   2万7,140ドル
輸入額            3,370億ドル    455億ドル   728億ドル
輸出額             2,841億ドル    1,052億ドル    869億ドル
二酸化炭素排出量  9.2t/人        9.8t/人    5.5t/人
自動車台数        3,093万台      2,193万台   426万台


 ブラジルは国民一人当りの所得ではロシアや中国よりも大きな規模になっています.他の工業国に比べると国民一人当りの所得はかない小さいという状況ですが,世界第10位の経済大国であり,経済中進国という位置付けになるのかもしれません.

 ブラジルは日本との繋がりも深く,現在,日系人は120万人を超え,4世,5世の時代を迎えているそうです.南米の中でもサッカーのワールドカップなどを通じて身近に感じられる国の一つかもしれません.その反面,ブラジルの政治,経済,産業やエネルギー事情については日本国内ではほとんど知られていないように思います.


ブラジルを含む各国の一次エネルギー消費構成(2001年)は以下のとおりです.

     ブラジル スウェーデン 露  英   仏   独   加   米   日    中    韓  

石油   25    30    19.0 34.0  37.4  39.3  32.0 40.0  48.0  28.2  52.6 
石炭   -     4      17.8  18.0 4.3  25.2 10.5 24.8  20.0  61.4  23.3
天然ガス -         1      52.2  38.3 14.3 22.3  23.8 24.8  13.8  3.2   10.6
原子力  -         31     4.8   9.1  37.0 11.5  6.3  8.2   14.1  0.5   13.0
水力他  67        34     6.2   0.7  7.1  1.7   27.3  2.2   4.0   6.8   0.5

(出典:BP統計(2001,2002))
(出典:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jseg/r_new/committee/daiei/takatama.htm)


 ブラジルのエネルギー事情に関してはほとんど日本には紹介されていないようです.大使館のホームページにもエネルギー事情に関する詳細なデータは掲載されていませんでした.そこで今回は,ネット上で見つけた高玉氏(http://wwwsoc.nii.ac.jp/jseg/r_new/committee/daiei/takatama.htm)の資料を参考とさせていただきました.

 高玉氏の資料によるとブラジルのエネルギーの現状として,エネルギー自給率は,77.4%(1998年)であり,エネルギーの国内生産量は水力が全体の43%を占め,石油(25%),バイオマス(24%)の順であると報告されています.住宅の電化率は93%で,LPG・都市ガスの普及率は96%と紹介されています.


各国のエネルギー自給率(単位:%,1999年)

       原子力含む  原子力除く

ブラジル   77.4(1998年)  -

スウェーデン 67.5     -
ロシア        158           -
日本     20      4
イギリス   123      112 
フランス   50      10     
ドイツ    39      26
カナダ    152      - 
アメリカ   75      65
中国     95      95
韓国     17      3


 エネルギー消費の39%を占める電力供給については,鉱山エネルギー省(MME)と外局の国家電力規制庁(ANEELL)が担当官庁となっています.ブラジルにおける発電電力量の約60%はEletrobrasグループとイタイプ水力公社が供給し,残りの約40%は州営や地方公共団体の発電事業により供給されています.

 発電の主力は水力ですが,石油,石炭,天然ガスの個別データは見つけることができませんでしたが火力全体では3.6%程度となっています.この他,自家発電も多く利用されています.原子力発電所はELETRONUCLERのアングラ1号(67万kW)と2001年に新たに営業運転を開始したアングラ2号機(131万kW)が稼動中です. 


ブラジルの発電電力構成(2000年)

     ブラジル スウェーデン ロシア  イギリス  フランス  ドイツ  日本

石油   (火力)    1.9   4.8    1.5    1.4    0.8    14.7
石炭   3.6      2.1    19.1   33.4    5.8    52.7   23.5
天然ガス          0.3   42.4   39.4    2.1     9.3    22.1
原子力    1.0      47.2  14.4   22.9    77.5    29.9   29.8
水力他   89.1     48.6  19.2   2.8     13.2    7.3    9.9
   
(出典:OECD/IEA,http://www.jepic.or.jp/overseas/data/index03.html,
http://www.jnc.go.jp/park/front/jnc_data/data/swe_index.htm#primary_energy)


 以上,ブラジルのエネルギー事情をまとめると以下のようになります.

(1)エネルギー自給率は80%弱と高い
(2)一次エネルギー供給は水力,バイオマス等の再生可能エネルギーが主力
(3)エネルギー消費の約40%を占める電力生産も水力が中心
(4)石油の自給率は約50%と比較的高い
(5)エタノールを用いたバイオマス燃料の利用が活発


 ところで,ブラジルでは1970年代から砂糖キビから作ったエタノールが乗用車の燃料として使用されています.自動車燃料用エタノールはE○○と表示され,例えばE10燃料はエタノール10%/ガソリン90%の混合燃料です.

 エタノール混合率が低い場合には通常のガソリン車でも利用できますが,エタノール濃度が高いE85燃料やE96燃料と呼ばれる燃料はエタノール専用車や米国で利用されているようなFFV(Flexible-Fuel-Vehicle)で利用されます.ちなみにブラジルでは400万台以上の自動車で代替エタノールE96が使用されており,600万台以上の自動車が22%のエタノールを混合したガソリンE22で走行しています.

 日本では自動車燃料用のエタノールは一般的ではなく,アルコール燃料としては資源・エネルギー庁が開発・販売している「M(メタノール)85」がエコステーションで「試験的」に販売されています.また,官庁,業界からの風当りの強い「ガイアックス」という商品名のアルコール系燃料が販売されています.


 話は変わりますが,日本で最も注目されている未来型自動車は「燃料電池」自動車(充電ではなく発電機能を備えた電気自動車)です.「燃料電池」は,電力を発生させるための燃料源として「水素」を常に供給することで動作しますが,「水素」をどのように得るかが大きな課題です.

 「水素」は水の電気分解で得ることができるため資源的には無尽蔵となりますが,「水」を燃料とする道筋の確立は将来的な課題です.そこで,現在は「水素」そのものを搭載するか,車上で天然ガス,ガソリン,アルコール等を「改質」し「水素」を得ることが考えられています.

 「水素」と「バイオマス」を結びつければ将来は国産燃料による自動車用燃料の確保も夢ではありません.最終的な到達目標としては理解できますが,現時点で私個人としては「燃料電池」自動車の商用化以前にガソリンのみでなくアルコールなどの様々な燃料に対応できるような多種燃料対応型自動車であるFFV(Flexible-Fuel-Vehicle)の国内での普及が実現できないものかと考えています.

 FFVの導入過程で多種燃料に対応できる燃料スタンド等のインフラも整備でき,将来の本格的な「燃料電池」自動車時代への無理のない移行も実現できるのではないかと思います.「燃料電池」を始めとする「水素」エネルギーの将来的な魅力は理解できますが,時間軸を考慮した冷静な判断が不可欠と考えます.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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