今回は,「スウェーデン」のエネルギー事情について考えたいと思います.まず,スウェーデンの基礎データは以下のとおりです.人口 887万人(2000年) (日本の7.6%)面積 45万km2 (日本の1.2倍)国民総所得 2,407億ドル (日本の5.3%)1人当たりの国民総生産 2万7,140ドル (日本の76%)輸入額 728億ドル(2000年) (日本の19%)輸出額 869億ドル(2000年) (日本の18%)二酸化炭素排出量 5.5tU/人(1998年) (日本の61%)自動車台数 426万台(1998年) (日本の6.1%)(出典:集英社,世界情報アトラス2003)参考データ1: 日本 中国 韓国 台湾 人口 1億1,628万人 12億6,583万人 4,614万人 2,239万人 面積 37.78万km2 960.78万km2 9.94万km2 3.62万km2国民総所得 4兆5191億ドル 1兆629億ドル 4,210億ドル 2,692億ドル 国民総所得/1人 3万5,620ドル 840ドル 8,910ドル 1万2,360ドル輸入額 3,795億ドル 2,251億ドル 1,605億ドル 1,400億ドル輸出額 4,792億ドル 2,493億ドル 1,723億ドル 1,484億ドル二酸化炭素排出量 9.0t/人 2.5t/人 7.9t/人 - 自動車台数 7,003万台 1,283万台 1,043万台 522万台参考データ2: アメリカ カナダ ドイツ フランス 人口 2億8,142万人 3,075万人 8,202万人 5,889万人面積 962.84万km2 997.61万km2 35.7万km2 55.12万km2国民総所得 9兆6,015億ドル 6,498億ドル 2兆637億ドル 1兆4,383億ドル国民総所得/1人 3万4,100ドル 2万1,130ドル 2万5,120ドル 2万4,090ドル輸入額 1兆2,576億ドル 2,448億ドル 5,028億ドル 3,054億ドル輸出額 7,811億ドル 2,766億ドル 5,515億ドル 2,981億ドル 二酸化炭素排出量 19.9t/人 15.3t/人 10.1t/人 6.3t/人自動車台数 2億1,549万台 1,701万台 4,474万台 3,249万台参考データ3: イギリス ロシア人口 5,950万人 1億4,549万人面積 24.3万km2 1707.5万km2国民総所得 1兆4,595億ドル 2,410億ドル国民総所得/1人 2万4,430ドル 1,660ドル輸入額 3,370億ドル 455億ドル輸出額 2,841億ドル 1,052億ドル 二酸化炭素排出量 9.2t/人 9.8t/人自動車台数 3,093万台 2,193万台 スウェーデンは人口が887万人と小さい国ですが,輸出入額は人口と比較して格段に大きく,さらに一人当りの国民総所得もドイツ,フランス,イギリスよりも大きな値なっています.スウェーデンというと高度な福祉国家というイメージが強いのですが,これも貿易国としての社会基盤があればこそなのかもしれません.スウェーデンを含む各国の一次エネルギー消費構成(2001年)は以下のとおりです. スウェーデン 露 英 仏 独 加 米 日 中 韓 石油 30 19.0 34.0 37.4 39.3 32.0 40.0 48.0 28.2 52.6 石炭 4 17.8 18.0 4.3 25.2 10.5 24.8 20.0 61.4 23.3天然ガス 1 52.2 38.3 14.3 22.3 23.8 24.8 13.8 3.2 10.6原子力 31 4.8 9.1 37.0 11.5 6.3 8.2 14.1 0.5 13.0水力他 34 6.2 0.7 7.1 1.7 27.3 2.2 4.0 6.8 0.5(出典:BP統計(2001,2002)) スウェーデンのエネルギー資源としては石油,原子力,水力他が3本柱となっています.水力他はいわゆる再生可能エネルギーで,特にバイオマスの利用が中心となっており,バイオマスの一次エネルギー供給に占める割合は20%前後に達しています. スウェーデンは森林資源が豊富な国で,燃料に用いられるバイオマス燃料は,森林を伐採した後に残される樹木の枝や製材に使われない端材などです.また,バイオマスエネルギーは化石燃料に対する炭素税や硫黄税,窒素酸化物税等の環境税を免除されるという税制面での優遇もあり,経済的にも魅力的なものとなっています.各国のエネルギー自給率(単位:%,1999年) 原子力含む 原子力除くスウェーデン 67.5 -ロシア 158 -日本 20 4イギリス 123 112 フランス 50 10 ドイツ 39 26カナダ 152 - アメリカ 75 65中国 95 95韓国 17 3スウェーデンの発電電力構成(2000年) スウェーデン ロシア イギリス フランス ドイツ 日本石油 1.9 4.8 1.5 1.4 0.8 14.7石炭 2.1 19.1 33.4 5.8 52.7 23.5天然ガス 0.3 42.4 39.4 2.1 9.3 22.1原子力 47.2 14.4 22.9 77.5 29.9 29.8水力他 48.6 19.2 2.8 13.2 7.3 9.9 (出典:OECD/IEA,http://www.jepic.or.jp/overseas/data/index03.html,http://www.jnc.go.jp/park/front/jnc_data/data/swe_index.htm#primary_energy) 以上,スウェーデンのエネルギー事情をまとめると以下のようになります.(1)国内に化石燃料資源はほとんど存在しない(2)一次エネルギー供給は石油,原子力,再生可能エネルギーが主力(3)再生可能エネルギーとしてはバイオマスエネルギーが中心(4)電力生産は原子力と再生可能エネルギーが主力(5)原子力発電所の閉鎖は再生可能エネルギー等の進展で判断 スウェーデンでは1980年の国民投票の結果を受けて,国会は2010年までに12基の原子力発電所を全て閉鎖することを決定しました.この決定を受けて1999年にバーセベック1号機が閉鎖されましたが,2001年に閉鎖する予定となっていたバーセベック2号機については,閉鎖による電力損失を国内の新規再生可能エネルギー電源や電力消費の削減によって補填できる見込みがないとの理由により延期されました. このようなエネルギーを取り巻く状況変化を踏まえ,2002年6月に政府の新エネルギー政策案が議会で承認されました.新エネルギー政策では,2001年現在,約60億kWhの再生可能エネルギーによる発電を2002年から2010年までに100億kWhまで拡大すること,その中でも特に風力発電の電力量は2015年までに100億kWhまで拡大することが目標となりました. 原子力発電に関しては,バーセベック2号機の閉鎖は2003年には可能と判定されましたが具体的な手続きは規定されませんでした.同様に他の10基の発電所の停止も可能性を検討することを述べるにとどめ,具体的な対応は将来の課題として残されました. 日本ではスウェーデンのエネルギー政策に関する情報は,部分的な側面が強調される傾向があります.しかし,現実のスウェーデンの政策は,自ら答えを見つけるよう試行錯誤を行っている途上にあることが理解できます.決してエネルギー問題に対する模範解答を見出したということではありません.本来,日本が参考とすべきは,スウェーデンを含む諸外国の「政策そのもの」ではなく,より良い回答を得るための試行錯誤を厭わない「姿勢」や「過程」のように思います. |