今回は,「ドイツ」のエネルギー事情について考えたいと思います.まず,ドイツの基礎データは以下のとおりです.人口 8,202万人(2000年) (日本の約71%)面積 35.7万km2 (日本の約94%)国民総所得 2兆637億ドル (日本の約45%)1人当たりの国民総生産 2万5,120ドル(2000年) (日本の約71%)輸入額 5,028億ドル(2000年) (日本の約1.32倍)輸出額 5,515億ドル(2000年) (日本の約1.15倍)二酸化炭素排出量 10.1t/人(1998年) (日本の約1.12倍)自動車台数 4,474万台 (日本の約64%)(出典:集英社,世界情報アトラス2003)参考データ1: 日本 中国 韓国 台湾 人口 1億1,628万人 12億6,583万人 4,614万人 2.239万人 面積 37.78万km2 960.78万km2 9.94万km2 3.62万km2国民総所得 4兆5191億ドル 1兆629億ドル 4,210億ドル 2,692億ドル 国民総所得/1人 3万5,620ドル 840ドル 8,910ドル 1万2,360ドル輸入額 3,795億ドル 2,251億ドル 1,605億ドル 1,400億ドル輸出額 4,792億ドル 2,493億ドル 1,723億ドル 1,484億ドル二酸化炭素排出量 9.0t/人 2.5t/人 7.9t/人 - 自動車台数 7,003万台 1,283万台 1,043万台 522万台参考データ2: アメリカ カナダ 人口 2億8,142万人 3,075万人面積 962.84万km2 997.61万km2国民総所得 9兆6,015億ドル 6,498億ドル国民総所得/1人 3万4,100ドル 2万1,130ドル輸入額 1兆2,576億ドル 2,448億ドル輸出額 7,811億ドル 2,766億ドル二酸化炭素排出量 19.9t/人 15.3t/人自動車台数 2億1,549万台 1,701万台ドイツを含む各国の一次エネルギー消費構成(2001年)は以下のとおりです. ドイツ カナダ アメリカ 日本 中国 韓国 石油 39.3 32.0 40.0 48.0 28.2 52.6 石炭 25.2 10.5 24.8 20.0 61.4 23.3天然ガス 22.3 23.8 24.8 13.8 3.2 10.6原子力 11.5 6.3 8.2 14.1 0.5 13.0水力 1.7 27.3 2.2 4.0 6.8 0.5(出典:BP統計(2002)) ドイツは石炭を豊富に産出する国でしたが,現在は石油がエネルギー消費の約40%を占めています.しかし,国策としての石炭への再転換策がとられた結果,国内エネルギー生産量の44%を石炭が占めています.各国のエネルギー自給率(単位:%,1999年) 原子力含む 原子力除く ドイツ 39 26日本 20 4カナダ 152 - アメリカ 75 65中国 95 95韓国 17 3フランス 50 10イギリス 123 112 ドイツと日本の石油依存度(1999年) ドイツ 日本 石油依存度 40(%) 52輸入依存度 97(%) 100中東依存度 7(%) 85(出典:IEA統計)ドイツと日本の発電電力構成(2000年) ドイツ 日本石油 0.8(%) 14.7石炭 52.7(%) 23.5天然ガス 9.3(%) 22.1原子力 29.9(%) 29.8水力他 7.3(%) 9.9 (出典:OECD/IEA,http://www.jepic.or.jp/overseas/data/index03.html) ドイツでは1998年10月に社会民主党と90年連合/緑の党が連立与党となり連立協定を締結しました.この連立協定にはエネルギーに関する事項があります.具体的には段階的な原子力からの撤退と放射性廃棄物政策に関する合意がなされています. この協定を踏まえてドイツ政府は2000年6月14日,原子力発電の廃止について主要電力会社と合意しました.合意内容は(1)原子力発電による総発電電力量を約2.6兆kWhとする,(2)原子力発電所の平均運転期間を32年とする,(3)再処理のための使用済燃料の輸送を2005年7月以降禁止する,などです.さらにこの合意に基づき原子力法の改正が行われ,2002年2月連邦議会の承認を得ました.(出典:http://www.pref.fukushima.jp/chiiki-shin/energy/kentou17/siryou3.pdf) 改正原子力法は2002年4月に施行され,新規の原子力発電所の建設が禁止されました.また,現在運転中の19基の原子力発電所(2002年現在)は2020年までに運転を終了することが明示されました.一方,脱原子力を実現するため,2000年4月に再生可能エネルギー法が施行されています.この法律では再生可能エネルギーで生産した電力の電気事業者による買取り義務と,電力の最低買取り料金が規定されています. その後の状況変化から,再生可能エネルギー法の改正も議論されています.この中では風力発電,太陽光発電,バイオマス発電,地熱発電,水力発電の拡大が計画されています.ドイツにおける再生可能エネルギーによる売上ベースでの構成は以下のとおりになっています. 再生可能エネルギーによる売上構成(2001年) 風力エネルギー 39バイオマス 29太陽エネルギー 15地熱 2水力 15(出典:大阪神戸ドイツ連邦共和国領事館ホームページhttp://www.german-consulate.or.jp/jp/umwelt/energien/index.html) 以上,ドイツのエネルギー事情をまとめると以下のようになります.(1)国内資源としては石炭が豊富である(2)このため,エネルギー自給率は日本と比較し高い(3)石油は大部分を海外に依存するが中東依存率は低い(4)電力生産の中心は石炭と原子力である(5)脱原子力を目指して再生可能エネルギーの開発に注力している ドイツのエネルギー政策の特徴の一つは脱原子力ですが,現時点でも原子力が発電電力量に占める割合は30%程度と高い比率になっています.一方,ドイツはフランスから143億kWhの電力を輸入しています(ドイツはベルギーへは5億kWhを輸出しています).フランスの電力は76%(1999年実績)が原子力発電により発電されたものですから,はフランスの原子力を間接的に利用していることになります. ドイツのエネルギー政策の特徴は脱原子力と再生可能エネルギーの拡大を関連付けながら実現しようという点です.一方,日本との相違点も十分考慮しておく必要があります.ドイツのエネルギー自給率は原子力を除いても26%で,代替エネルギーとして再生可能エネルギーの導入を行うことで現在の40%程度の自給率を維持する姿勢が見えます. これに対し,日本のエネルギー自給率は原子力を含めても高々20%と非常に小さい状況です.今後,脱原子力を推進し,これを補うために石油,石炭,天然ガス等の化石燃料の輸入拡大により補うことは,エネルギー自給率のさらなる低下をもたらすリスクの高い行為です. 日本では,原子力利用と再生可能エネルギー利用を相互に関連付けた戦略的な議論は行われてはいません.日本が将来,ドイツと同様に脱原子力を図る一方,再生可能エネルギーの拡大によりエネルギー自給率の低下を最小限に食い止めながらエネルギー供給構造の変革を図るべきなのか,原子力利用を継続しながら,再生可能エネルギーの拡大により,エネルギー自給率の一層の向上を目指すべきなのかは,十分な議論を踏まえて選択すべき課題と感じています.************* お詫び *****************−メルマガ42号記事の訂正−カナダを含む各国の一次エネルギー消費構成に関するデータの誤りを読者からご連絡いただきました.大変申し訳ありませんが以下のとおり訂正させていただきます.(誤) カナダ アメリカ 日本 中国 韓国石油 35.8 39.4 49.6 30.1 53.0石炭 12.6 19.3 63.8 22.3 25.0天然ガス 30.2 13.4 3.0 9.8 24.7原子力 8.1 16.1 0.6 14.6 7.6水力 13.3 1.5 2.5 0.3 2.6(正) カナダ アメリカ 日本 中国 韓国 石油 35.8(%) 39.4 49.6 30.1 53.0 石炭 12.6(%) 24.8 19.3 63.8 22.3天然ガス 30.2(%) 25.8 13.4 3.0 9.8原子力 8.1(%) 9.0 16.1 0.6 14.6水力 13.3(%) 1.0 1.5 2.5 0.3 |