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No. 032 update 2002.12.15 PDF版(16.9 kbyte)

エネルギー(第16回)

燃料電池

 今回は「燃料電池」について考えていきたいと思います.

 「燃料電池」は,「燃料電池自動車」として実用化が図られ,社会の注目を浴びる技術となっています.「燃料電池」は英語で「フューエル・セル(Fuel Cell)」と表記され,「FC」と略されています.

 「燃料電池」は「需要サイドの新エネルギー」に分類され,「従来型エネルギーの新利用形態」と位置付けられています.同様な位置付けにあるエネルギーには,「天然ガスコジェネレーション」および「クリーンエネルギー自動車」があります.

 まず,「需要」サイドと「供給」サイドという言葉について考えてみたいと思います.前回まで考えてきた太陽光発電/風力発電/廃棄物発電/バイオマス/太陽熱利用/廃棄物熱利用/廃棄物燃料製造/雪氷冷熱は「供給サイド」の新エネルギーに分類されています.

 これは「燃料電池」,「天然ガスコジェネレーション」,「クリーンエネルギー自動車」が,「化石燃料」を何らかの形で利用する技術であるため,新しいエネルギーの「供給」ではなく,「エネルギー」の「需要」に関係した新エネルギーと位置付けられることに起因しています.

 ちなみに「燃料電池」で用いる「燃料」は「水素」ということになります.「水素」は自然界に「水(水素と酸素の化合物)」として大量に存在しますが,「水素」として単体で豊富に存在する資源ではありません.

 したがって,「水素」を「水素を含む原料」から製造する必要があります.もし,「水素」が天然資源として直接得られるのであれば,「石油」や「石炭」と同様に「水素」という供給サイドの新エネルギーを活用するための「エネルギー変換装置と位置付けることができます.

 すなわち,「燃料電池」は,「石油」を燃やす「エンジン」,「石油」や「石炭」を燃やす「火力発電所」,「ウラン」や「プルトニウム」を燃やす「原子力発電所」と同様に「水素」を燃やす「エネルギー変換装置」と考えると理解し易いと思います.

 「水素」製造は様々な原料から行うことができますが,現時点では「石炭」,「天然ガス」,「石油(ガソリン)」や「メタンガス」等の化石燃料を起源としたものが一般的です(この操作を「改質」と呼んでいます).これは,既存の燃料供給インフラを転用できる点からも現実的と考えられます.

 燃料として利用できるのは「化石燃料」に限られている訳ではありません.植物起源の「アルコール」から水素を製造することも可能であり,将来的には「水」から(再生可能エネルギーを用いて)「水素」を製造することも決して不可能ではありません.
 
 ところで,「燃料電池」の原理ですが,子供のころ理科で水の電気分解というのを習った記憶をお持ちの方も多いかと思います.水の電気分解では,水に外部から電気を通じて水素と酸素に分解しています.これに対し「燃料電池」では,水の電気分解の逆の原理で,水素と酸素を電気化学的に反応させて水を生成させる際に発生する電気を外部に取り出しています.

 燃料となる「水素」と「酸素(空気中の酸素)」を供給し続ければ連続して発電することができます.「電池」という名前がついていますが,いわゆる「蓄電池(バッテリー)」とは原理が全く異ったものと理解しておく必要があります.

 「燃料電池」としてはいくつかの種類があり,その中でもリン酸形燃料電池(Phosphoric Acid Fuel Cell)は,最も開発が進んで現在商用化段階にあります.電気出力が50〜200kWクラスのものは日本国内でも50か所以上の建物で実際に設置・運転されています.

 また,最近注目されているのが固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell)で,ガス事業者や燃料電池メーカーが,家庭用小型燃料電池の実用化を目指しています.燃料電池自動車用の燃料電池もこのタイプです.

 これまで実用されている燃料電池はリン酸型燃料電池で,以下のような実績となっています.

設備容量(単位:kW)

   1990  1992  1994  1996  1998  1999  2000
日本 12,830 15,880 23,980 31,630 16,050 14,550 12,250
北米 0    800    4,600  8,000  11,200 11,600 11,800
欧州  0      1,550  1,900  2,250  2,000  2,800  2,800

(出典:NEDOホームページ http://www.nedo.go.jp/nedata/12fy/07/0007blst.htm)
データは社団法人日本ガス協会「燃料電池の技術調査報告書」等をもとに各年度ごとに,運転状態にあるものの容量および台数を集計した値.

今後,国内での燃料電池導入目標は下記のとおりです.

2010年度(目標)  2010/1996
220万kW      約140倍
(出典:長期エネルギー需給見通し(平成10年6月改訂))
 「燃料電池」は,欧州に比べて日米が熱心であることがわかります.それでも日本では意外なことに1996年をピークに年々設備容量が低下しています.これはリン酸型燃料電池の経済性や耐久性に課題があり,廃棄量が新規導入量を上回っている状況にあることが原因のようです.

リン酸型燃料電池コスト(本体価格)の推移(単位:万円/kW)
        1991  1992  1993  1994  1995  1996  1997  1998  1999
本体価格 240   -     179   140   115   95    80    70    60
(出典:総合エネルギー調査会,新エネルギー部会資料平成12年1月)

リン酸型燃料電池の運転実績値を用いた試算
出力 設置コスト 発電効率 運転経費  燃料費 発電コスト 排熱利用
kW  万円/kW %       万円/kW年 同左   円/kWh  円/kWh
100  75      35       4     12     28      △6.9
(出典:総合エネルギー調査会,新エネルギー部会資料平成12年1月)

家庭用電灯単価 : 23.3円/kWh(1998年度電灯平均単価)
燃料費相当   :  4.0円/kWh(電力会社の回避可能原価)
火力発電単価  :  7.3円/kWh(火力発電単価(1999年度時点))
業務用電力単価 : 23.3円/kWh(1998年度電灯平均単価)
(出典:経済産業省調べ(総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会報告書等)) 

 これらのデータからリン酸型燃料電池は排熱利用を行うことでコスト面では既存エネルギーと十分競争できるレベルにあることがわかります.したがって,最近の導入減少はコスト以外の要因によるものかもしれません.


 「燃料電池」と関連の深い「水素エネルギー」に関しては1993年WE-NET計画(水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術)がスタートしています.これはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が中心となり取組んでいるもので,1993年から2020年までの28年間で研究開発が実施される計画です.

 このプロジェクトでは国内における水素エネルギーの供給可能量に関する検討も行われており,以下の数値が報告されています.

製鉄所のコークス炉の副生ガス   62億Nm3/年
食塩電解にともなう副生水素ガス  12億Nm3/年
その他              156億Nm3/年 
合計               230億Nm3/年
(出典:燃料電池NPO法人PEM-DREAMホームページ http://www.pem-dream.com/)
 
 この供給量は,燃料電池実用化戦略研究会が2020年度の導入目標としている500万台の自動車に必要とされる水素燃料37.5億Nm3/年と比較しても十分な量であり,水素供給源として国内の副生水素で確保できることを意味しています.


 「燃料電池」の開発は,日本では1981年に通産省(現在の経済産業省)ムーンライト計画で取上げられてからまだ20数年程度しか経過していません.今後の着実な進展を期待する一方,「燃料電池」を含む「水素エネルギー」利用ではインフラの整備を含め利用拡大の時間軸を十分に考慮することが必要と考えます.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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