No.102:風力発電(第2回)

風力発電(その2)

No.101:風力発電(第1回)

風力発電(その1)

No.100:年始のご挨拶(2006年)

「年始にあたって」

No.099:水素エネルギー・燃料電池(その4)

燃料電池

No.098:水素エネルギー・燃料電池(その3)

水素の製造

No.097:水素エネルギー・燃料電池(その2)

水素エネルギーの位置づけ

No.096:水素エネルギー・燃料電池(その1)

水素生産および需要の現状

No.095:バイオマス(第7回)

バイオマス利活用例(3)

No.094:バイオマス(第6回)

バイオマス利活用例(2)

No.093:バイオマス(第5回)

バイオマス利活用例(1)

No. 029 update 2002.11.01 PDF版(13.8 kbyte)

エネルギー(第13回)

廃棄物熱利用

 今回は「廃棄物熱利用」について考えていきたいと思います.

 「廃棄物熱利用」は言葉のとおり廃棄物を焼却した際に発生する排熱や,廃棄物発電後に得られる排熱を暖房や給湯に利用するものです.具体的には温水プールに利用したり,住宅に熱供給を行う大規模な利用方法があります.

 現在,実用化されているのは200t/日〜500t/日の処理能力を持った廃棄物処理施設の排熱や,発電後の熱利用が主流となっているようです.

 資源エネルギー庁のホームページによると廃棄物熱利用実績は,1999年度で原油換算4.4万klとなっています.しかし,現状のままではほとんど利用が見込めないことから2010年度の目標は14万klに設定されています.

新エネルギー導入の実績と目標

         1999年度実績 2010年度見通し 2010年度目標  2010/1999

太陽熱利用    98万kl    72万kl     439万kl    約4倍
廃棄物熱利用   4.4万kl    4.4万kl     14万kl     約3倍
バイオマス熱利用 -       -        67万kl     -
黒液・廃材    457万kl    479万kl     494万kl    約1.1倍
未利用エネルギー 4.1万kl    9.3万kl     58万kl     約14倍
(雪氷冷熱を含む)  

※「目標ケース」の値は,官民の最大限の努力を前提とした目標量.


 廃棄物熱利用が思った以上に導入が進まない最大の理由は経済性にあるようです.廃棄物熱利用は極めて簡単な原理に基づく熱利用ですが,その割に経済的ではありません.また,焼却施設と熱需要地の距離が長い場合,熱供給配管の整備などの建設コストが大きく不利になります.ちなみに損失が少なく廃棄物の熱を有効に利用できる距離は2km程度と言われています.
 
新エネルギーの経済性の現状   

発電/熱利用 コスト     既存エネルギーとのコスト比較

太陽光発電  70〜100円/kWh 2.5〜6倍(電力料金)
太陽熱利用  約23円/Mcal  約2倍(都市ガス料金)
風力発電   16〜25円/kWh   1〜1.5倍(火力発電単価)
廃棄物発電  9〜15円/kWh  1.5〜3倍(都市ガス料金)
廃棄物熱利用 20〜40円/Mcal 2.5〜4倍(都市ガス料金) 

出典)三菱総研・井上氏(http://www.gpc.pref.gifu.jp/infocen/yakudatu/enetoku/1/saisei.htm)
   総合エネルギー調査会需給部会中間報告(平成10年6月)を一部修正


 これまで日本では地域暖房という考え方はあまり一般的ではありませんでしたが,北欧,例えばスウェーデン,フィンランドやデンマークで地域暖房が積極的に利用されています.

 欧州の地域暖房に関しては北九州市立大学の高偉俊助教授(http://esd.env.kitakyu-u.ac.jp/weijun/lesson/chapter6/paper.pdf)の報告が参考になります.この報告によると欧州の地域暖房は最も古い歴史をもっており,16世紀前後,燃料の節約,排煙の低減及び安全面からロンドンでは地域暖房の導入計画があったと記載されています.またドイツのベルリン地区では1884年に熱供給の会社Bewagが設立され,1912年に地域熱供給を始めたとのことです.

 石油危機以後,熱併用の供給は初めて重視され,各国,特にドイツでは,コージェネレーション(以下CHPと略す:詳細は省略しますが「発電」と「熱供給」を同時に行う技術です)の導入等に力を入れてきました.近年の環境問題から,コージェネレーションと地域冷暖房には追い風となっています.CHPをうまく利用すれば,一次エネルギーの利用効率は最大90%に達すことも可能と言われています.

 デンマークでは省エネルギーの政策とともに,熱供給法(1979年施行)の施行によって,発電所,工場及びゴミ焼却場等の排熱を活用する地域熱供給ネットワークを推進してきました.90年代に入って,主要な都市に大規模なCHPが建設され,7年間あまりで,CHPプラントが1991年の40ヶ所から,1998年の275ヶ所まで増加しています.これらによりデンマークでは暖房需要のうち60%前後を地域暖房で賄っているようです.

 ところで地域暖房に利用されている燃料の構成は国ごとに非常に異なっているようです.ドイツ,デンマークでは石炭の比率が高く,50%を占め,天然ガス,廃棄物焼却排熱,再生可能エネルギー,石油等が続きます.

 廃棄物熱利用の観点からはフランス,デンマークの地域暖房の燃料としての利用比率が比較的高く,それぞれ約25%,10%とのことです.


 日本では「地域暖房」という概念は今一つ浸透していません.この概念は本来「廃棄物熱利用」だけのためにあるのではなく,本質的には省エネルギーの観点から導入を検討する必要があるものと思います.日本の建物,特にビルでは個別のエアコンで暖房が行われているケースが多いと思いますが,発電所で燃料を燃焼させて得た「熱」を「電気」に変換し,これを再度「熱」に変換するという利用形態は効率面で問題があります.

 海外の事例から見ても,国内では寒冷地から「地域暖房」という考え方を導入することが現実的なのかもしれません.すでに北海道では北海道地域暖房株式会社が熱供給事業法に基づいて行っており,エネルギー事業としては電気,ガスに次ぐ第3の公益事業といわれています.これは温熱を集中的に製造するプラントから一定のエリアの建物に配管を通じて熱を供給するものです.この他,山形等でも地域暖房が注目されています.

 いずれにしても「廃棄物熱利用」拡大のためには「地域暖房」用の共通設備を整備することが最大の課題と言えるかもしれません.しかし「廃棄物熱利用」推進を目的として「廃棄物焼却処理」の拡大を正当化することは本末転倒です.あくまでも様々な「熱源」を利用できる「地域暖房」用設備の整備と,熱利用の「全体バランス」を考慮した上で構築することが不可欠な暖房システムと考えられます.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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