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No. 027 update 2002.10.01 PDF版(18.8 kbyte)

エネルギー(第11回)

バイオマス

 今回は「バイオマス」について考えていきたいと思います.

 「バイオマス」は,生物体を原料にしたエネルギー資源の総称と位置付けることができます.「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」では,「バイオマス」とは「動植物に由来する有機物であってエネルギー源として利用することができるもの(原油,石油ガス,可燃性天然ガス及び石炭並びにこれらから製造される製品を除く.)」と定義されています.

 「バイオマス」も太陽,風力,水力などとともに,地球の自然環境の中で繰り返し得られるエネルギーであり,「再生可能エネルギー」の一つです.特に自然界で炭素を循環できる点は魅力的と言えます.植物は光合成を行うために二酸化炭素を吸収します.これらの植物からエネルギーを取り出す際の燃焼時には二酸化炭素が排出されますが,この源の炭素はもともと大気中にあった二酸化炭素であるため,燃焼させた分だけ植物を育成すれば大気中に排出される二酸化炭素の量は増加しないと考えることができます.

 「バイオマス」として,具体的に想定される利用形態の例は以下のとおりです:

①建設廃材,木屑,間伐材,林地残材,稲わら,もみ殻等の木質の有機物を原材料として固形化燃料を製造し,これらを燃焼させて熱利用や発電利用を行う形態,
②食品廃棄物・副産物やふん尿をメタン発酵させてメタンガス燃料を製造し,これらを燃焼させて熱利用や発電利用を行う形態,
③菜種,とうもろこし等から取れる植物油に化学処理し,液体燃料(ディーゼル自動車の軽油代替燃料として利用)を製造する形態,
④黒液(木材パルプの製造の際に生ずる廃液)を濃縮し,それを燃焼させて熱利用や発電利用を行う形態.

等です.

 ④の黒液(こくえき)についてはメルマガ第11号で概要を述べましたのでご参照下さい.黒液は紙を製造する上で非常に重要なエネルギー源として利用されており,現時点でのバイオマスの中心となっているエネルギー源です.
(出典:日本紙共販http://www.nipponpapersales.co.jp/dept_yoshi/kamidasu/kamidasu01.html#1_6)


 上記の③に近い利用形態ですが,植物からアルコールを製造し,これを燃料として利用することも可能です.燃料用アルコールの製造は海外ではアメリカ,ブラジルで実用化されていますが,日本ではほとんど注目されていません.食料用の農作物でさえ自給が十分ではない状況で燃料用の植物を栽培することは無理との観念が根強いのかもしれません.

 燃料用アルコールの利用は広い国土を有し,大規模な植物栽培が可能であるアメリカ,ブラジルでさえ,コスト面では不利なため税制優遇など政策措置が取られています.これらの制度によりアルコールをガソリン代りに使用する条件を整備している状況であり,日本で燃料用アルコールを製造する場合にはより広範囲な政策的支援が不可欠なようです. 

 バイオマスエタノール研究会のホームページ(http://www.rite.or.jp/Japanese/labo/biseibutsu/08/No.2/No.2.htm)によるとサトウキビからの自動車燃料用エタノールの生産はブラジルの他,アメリカでもトウモロコシデンプンを原料とする燃料用エタノールが行われており,以下のような市場規模となっています.

アメリカにおけるバイオエタノール市場

     生産量

1980年    70万kL
1999年  560万kL
2010年  1500万kL(予想)
2020年  4100万kL(予想) 

 これらの大部分はE10燃料(エタノール10%/ガソリン90%混合燃料)として使用されています.ちなみにE85燃料(エタノール85%)が使用できるのがFFV(Flexible-Fuel-Vehicle)と呼ばれている自動車で,様々な燃料に対応できる車と位置付けることができます.FFV車の普及台数は2000年で75万台程度とのことで1997年の1万台と比較すると飛躍的な進展と言えます.ちなみにE10は既存の自動車エンジンでも使用できますが,E85では仕様変更が必要となっています.この変更コスト(300$/台)はメーカーで吸収され一般車価格で購入できるようです.


 「バイオマス」は資源循環という観点からは非常に理想的なものです.しかし,導入に関してはアメリカを除きあまり熱心ではないようです.日本では研究開発予算面では「太陽光発電」と「地熱」が大きく,続いて「風力」,「バイオマス」の順となっており,それなりの投資がなされているようです.

再生可能エネルギー研究開発国家予算に関する比較(1995年)
                             (単位:MUS$)
               日本   アメリカ   ドイツ  フランス

                                                            
再生可能エネルギー全体    139.42  393        96.21      6.09
エネルギー全体に占める割合 (2.96%) (13.48%)   (26.89%)   (0.91%)
 太陽熱           3.63   93.70      19.39      0.26
 太陽光発電         80.41   87.50      40.42      2.22
 太陽熱発電         0.00      31.50      4.56       0.00
 風力            6.74      47.10      27.15      0.20
 バイオマス         6.17      59.60      2.09       2.00
 海洋            1.51      0.00       0.00       0.00
 地熱            40.95     37.80      2.60       1.30
 水力            0.00      4.90       0.00       0.10

(出典:IEA Energy Technology R&D Statistics)


 バイオマス産業社会ネットワークのホームページ(http://www2u.biglobe.ne.jp/%7Epoema/)によると全世界で光合成によって植物細胞の総量は年間1,000~1,500 億トンで,これらから生産できるエネルギー総量は,現在世界で消費されているエネルギーの総量のおよそ10倍に相当するそうです.実際の利用となると様々な制約を受けますが,量的にも決して小さいものではありません.現時点でも「バイオマス」は,世界の一次エネルギーの12.1%(大部分は開発途上国)を占め,石油、石炭、天然ガスに次ぐ量となっているようです.

 日本でも2002年1月21日に新エネルギー利用促進特別措置法の政令改正が行なわれ,「バイオマス」と「雪氷」が新エネルギーに追加されました.ある意味で日本でも「バイオマス」がようやく注目され出したと言え,将来のエネルギー源の一つとして今後の展開を期待したいと思います.

 
 最後に日本でアルコール系自動車燃料として商品化されている「ガイアックス」について考えておきたいと思います.「ガイアックス」の原料は「天然ガス」のため植物起源のアルコールではありません.したがって「バイオマス」として位置付けることはできませんが,間接的に「天然ガス」を自動車用燃料に転用できる点は大変興味深く感じています.

 「ガイアックス」はメタノール,エタノールを含まないアルコール系自動車燃料で,環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=2478)には炭化水素分を49.3%,イソブタノールを21.2%,イソプロパノールを12.0%,添加剤としてオクタン価向上剤であるMTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)を17.4%含む燃料と記載されています.

 この新燃料に対して監督官庁及び業界は課税,安全性,環境面の問題点を指摘し,消極的な対応をとっています.例えば課税面では資源・エネルギー庁が開発・販売している「M(メタノール)85」というアルコール系自動車燃料(エコステーションで「試験的」に販売されているとのことです)はメタノール85%,炭化水素油分15%からなる自動車用燃料で揮発油税も軽油引取税も課税されていないとのことです.

 一方,「ガイアックス」は製造コストはガソリンより高価とのことですが揮発油税(53円80銭)がかからないため,販売当初は価格を大幅に安くできたようです.しかし,2000年から本来「軽油」には該当しない「ガイアックス」にディーゼル車と同様な「軽油引取税(32円10銭)」が課税されるようになり,事業継続が容易ではない環境にあるようです.

 また既存「ガソリン車」での「ガイアックス」利用による金属腐食やゴム劣化等の問題が指摘されています.しかし,材料の問題は技術的に解決が難しいとはとても思えません.問題があるならばこれらを改善した「ガイアックス」対応車が販売されても良いように感じています.

 日本では新しい事業の立上げには様々な制約を受ける傾向があるようです.現在では社会に定着している「宅急便(宅配便)」も事業開始当初の監督官庁や業界からの様々な試練を乗り越えて成長してきました.「ガイアックス」も社会のニーズに合致し,ユーザーの賛同が得られるのであれば,いずれは社会に浸透していくものと思います.


お詫び:

 メルマガ第24号等に記載の新エネルギー(特に風力発電)の目標値に関して読者の方からご指摘をいただきました.当方で確認致しました結果,2001年6月「総合資源エネルギー調査会」において,新エネルギーの導入目標は大幅に上方修正されておりましたので,以下のように訂正させていただきます.

発電分野       1999年度   2010年度   2010/1999
                (実績)    (目標)
太陽光発電       20.9万kW   482万kW    約23倍
風力発電          8.3万kW    300万kW  約38倍
廃棄物発電        90万kW     417万kW  約5倍
バイオマス発電      8.0万kW    33万kW   約6倍

(出典:資源エネルギー庁ホームページhttp://www.enecho.meti.go.jp/policy/newenergy/newene8.htm)

 今後とも,メルマガ記事に引用しております数字等に疑問点がございましたら是非ご一報いただければ幸いです.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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