No.002:将来の社会像(第1回)

将来の社会像(第1回)

No.001:発行にあたって

発行にあたって

No. 025 update 2002.09.01 PDF版(15.6 kbyte)

エネルギー(第9回)

風力発電

 今回は「風力発電」について考えていきたいと思います.

 「風力発電」の動力となる風力エネルギーは,風向・風速の変動により安定したエネルギー供給の難しさはあるものの,潜在的には資源が広範に存在し,無尽蔵な純国産のエネルギーとして位置付けられます.

 「風力発電」の原理は,既にご存知のとおり風車により回転エネルギーに変換し,発電機を回して電気エネルギーを取り出すもので,非常にわかり易い技術と言えます.かつてシュマッハ−が「スモール・イズ・ビューティフル」で唱えた「人間の顔を持った技術」や「中間技術」として表現される「技術」として位置付けることができるかもしれません(参考:講談社学術文庫,「スモール・イズ・ビューティフル」,F.F.シューマッハー著,小島慶三,酒井懋訳).

 実際の「風力発電」においては風は地上からの高さが高いほど強くなるため,風車もできるだけ高い位置に設置することや,風車の受風面積を大きくすることで出力を増大させることが考えられています.このため設備としては必ずしも小さいものではありません.

 日本における「風力発電」の導入実績は,代表的な「自然エネルギー」となっている「太陽光発電」と比較すると物足りないものとなっています. 


風力・太陽光発電の国際比較(単位万kW) 
   
        風力   太陽光 

日本      3.8   13.3 
ドイツ     257.9    5.4 
アメリカ   205.5    10.0 
イギリス   47.4     0.1 
オランダ   42.5     0.6 
中国       29.4     0.0 
イタリア   15.5     1.8 
スイス     0.0      1.2 

世界合計   984.1    39.2 

(出典:日本は新エネルギー・産業技術総合開発機構
 NEDO,その他各国の風力は米団体(98年末)
 太陽光は国際エネルギー機関IEA調べ(98年度末)) 


世界の風力発電導入量

   設備容量(MW)[1MW(メガワット)=1,000kW]
1997年末     1998年新設予定  1998年見込値
 
ドイツ  2,079       500              2,579
アメリカ     1,805      250       2,055
デンマーク    1,061       300              1,361 
インド           933         200              1,133
スペイン         425         300              725
イギリス         324         150              474
オランダ         325         100              425 
中国             169         125              294 
スウェーデン     122         25               147
イタリア         105         50               155
アイルランド     46          30               76
日本             17          42               59
その他の諸国     273         85               358

計               7,684       2,157            9,841 
            
(出典:American Wind Energy Association等)


日本における2010年度の「太陽光」及び「風力」発電の導入目標

エネルギー分野       1997年度  2010年度
                        (実績)   (目標)

太陽光発電         9.1万kW    500万kW
風力発電          2.1万kW     30万kW

(出典:資源エネルギー庁ホームページ)


 「風力発電」は特に欧米を中心に「再生可能エネルギー」として期待されていますが,問題が全くない訳ではありません.フル稼働時の騒音及び鳥類への被害はカリフォルニアでは大きな問題となっており,特に鳥類への対策は難しいようです.また稼働率の低さも問題でカリフォルニア州の場合,最高で20%程度という報告例があります(出典:安川商事株式会社ホームページ http://www.naturalgoods.com/wind.html).


 また,「風力発電」の導入拡大にはコスト面での問題を解消するための国の方策に大きく依存するようです.「風力発電」は新エネルギーの中ではコスト競争力が高く家庭用電力料金以下ですが,電力供給系統の関係から火力発電単価が比較対象とされているようです.

発電コストの推移等 (単位:円/kwh,万kw) 

エネルギー名  発電コストの推移   既存エネルギーとの比較

太陽光発電   314(H5)→81(H11)   家庭用電力料金の約3倍 
風力発電    26(H1) →19(〃)    火力発電単価の約2倍
燃料電池    67(H3) →28(〃)    火力発電単価の約3.5倍 
 
※家庭用電力料金:約25円/kwh,火力発電単価:約8円/kwh 
(出典:総務庁ホームページ http://www.soumu.go.jp/kansatu/energy.htm)


「自然エネルギー促進法」推進ネットワークのホームページによると,ドイツでは1991年に「再生可能エネルギーからの電気の買い取りを電力会社に義務づける法律」(自然エネルギーからの電力の買い取りの義務づけ,買い取り価格の優遇,法的措置の3点が骨子)を導入し,1998年末時点で「風力発電」による発電量が300万kW近くまで拡大できたと紹介されています.

 日本でも経済産業省が「RPS」(再生可能エネルギー一定枠導入制度)の具体化に取組んでいます.このRPS とは,電気事業者などに一定枠の自然エネルギー供給を義務づけ,その過不足を証書の取引で満たす制度で欧州ではイギリス,オランダ等が採用しています.

 ドイツ,デンマーク,スペインやフランスは風力発電をはじめとする自然エネルギーからの電力を一定の優遇価格で購入することを定める「固定価格優遇制度」を導入しています.1990年に「電力供給法」として法制化され,地域の電力会社に平均電気料金の90%の価格で自然エネルギーの買取りを義務づけています.

「政治的に量を制限する」(RPS)が良いのか,それとも「政治的に価格を決める」(固定価格優遇制度)が望ましいのか,という選択上の問題として捉えることができるようです.いずれにしても「風力発電」の社会への定着に適した制度が導入できればと考えます.


 科学技術庁資源調査書の報告によれば,全国の海岸線のうち6,000kmに高さ100mの風車を設置すれば,年間30億〜300億kWh(1997年度の日本の総発電量の0.3〜3%相当)ものエネルギーが得られると試算されています(http://www.jca.apc.org/~gen/wind.htm).
 
 日本における2000年度の新エネルギー(廃棄物,太陽光及び風力発電)による発電実績は0.2%となっています.この中で風力発電の占める割合は現時点では更に小さい数値となっています.しかし,電力需要の数%程度を担う潜在力を十分有していると考えられますので,今後の積極的な導入拡大が期待されます.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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