前回まで「既存エネルギー」として位置付けられている「石油」,「石炭」,「LNG(液化天然ガス)」,「原子力発電」,「水力発電」,及び「地熱発電」について考えてきました.今回からは「新エネルギー」について考えていきたいと思います.まず「太陽光発電」についてとりあげます. 太陽エネルギーの利用は,今回のテーマとした「太陽光発電」以外にも様々な形で利用されており,これらは直接利用と間接利用に分類されています.直接利用としては「太陽光」と「太陽熱」の利用があり,前者としては「太陽光発電」以外に「光化学反応(水素)」があります.また,後者の「太陽熱」利用としては温水器等があります.一方,間接利用としては「風力」,「波力」,「水力」発電などの他,光合成を利用する「バイオマス」があります. 「太陽光発電」は新エネルギーのホープ的な存在で,日本では「風力発電」や「燃料電池」とともに最も精力的に開発に取組んでいるエネルギーと言えます.これは,「太陽」はエネルギー源として無尽蔵な「再生可能エネルギー」であることが理由として考えられます. 以下に示すとおり日本に到達する全太陽エネルギーの1%を利用できれば国内全てのエネルギーを満たすことができる計算になります.日本の全太陽エネルギー 50,000GW(消費の100倍))日本の全消費エネルギー 500GW地球上の全太陽エネルギー 120,000TW(消費の12,000倍)地球上の全消費エネルギー 10TW(出典:新エネルギー.産業技術総合開発機構(NEDO)ホームページ) 「太陽光発電」で中心的な役割を担うのが「太陽電池」です.「太陽電池」は,1954年に発明され,半導体で構成される素子です.半導体に太陽光が当たると光子により,半導体の接合部が励起され半導体間に電位が生じます.この半導体の両側に負荷を接続すると,直流電流として電気エネルギーを利用できるようになります.ちなみにこの半導体材料としては「結晶系」と「アモルファス系」のものがあります. 発電方法ごとのCO2排出量に関するデータを以下に示します.「太陽光発電」は確かに「火力発電」と比較すると極めて「クリーン」なエネルギーです.しかし,他の再生可能エネルギーと比較するとややCO2排出量が大きくなっています.1kWh当りのCO2排出量(単位:g-CO2/kWh)石炭火力 975.2石油火力 742.1LNG汽力 607.6LNG複力 518.8太陽光 53.4風力 29.5原子力 28.4地熱 15.0水力 11.3(出典:電力中央研究所「ライフサイクルCO2排出量による発電技術の評価」) 次に「太陽光発電」における「エネルギー回収期間」と「コスト」について考えることにします.エネルギー回収期間は,下記の計算式に示すように太陽光発電システムを作るために投入されたエネルギーと同じエネルギーを発電によって産み出すまでの年数のことです.エネルギー回収年数(EPT)=Eo/EgEo: 太陽光発電システムの製造に必要なエネルギーEg: 太陽光発電システムが産み出す年間エネルギー グリーンピースのホームページには結晶系で8年程度,アモルファス系で3年程度との記載があります(1997年時点のものです).これが2.3年から1.5年に短縮されたという報告もある旨の記載がありますので,現時点ではさらに短縮されているものと考えられます. また,太陽光発電のシステム価格は,住宅用システムで1993年頃1kWh当たり約300万円,2000年には約85万円とされています.発電コスト換算では60円/kWhとなっています.この数字は家庭用電力料金約25円/kWh,火力発電単価約8円/kWhと比較するとまだ割高です. 年 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 住宅用システム[万円/kw] 300 190 150 120 110 105 95 85 発電[コスト円/kw] 210 133 105 84 77 74 66 60 ※前提条件:償却年数20年,金利4%,稼動率12%でメンテナンス費用は考慮せず (出典:太陽光発電協会ホームページ) コスト面での競争力を補い太陽光発電システムの普及を拡大し,量産効果による価格低減を喚起するため経済産業省が住宅用太陽光発電の設置者に対して以下のような設置費用の一部の補助を行っています. 住宅用太陽光発電システムモニター事業の概要 年度 予算額 導入量 平均発電規模 導入件数 1994年度 20.3億円 1.9MW 3.45kW 539 1995年度 33.1億円 3.9MW 3.68kW 1,065 1996年度 40.6億円 7.5MW 3.79kW 1,986 合計 94.0億円 13.3MW ※3.71kW 3,590 (注)※は1994〜1996年度の平均値 住宅用太陽光発電導入墓盤整備導入整備事業年度 予算額 導入量 平均発電規模 導入件数 1997年度 111.1億円 19.5MW 3.45kW 5,654 1998年度 147.0億円 24.1MW 3.79kW 6,352 1999年度 160.4億円 57.7MW 3.63kW 15,879 2000年度 予算額 145.0億円(応募受付件数25,741件) 2001年度 予算額 235.1億円 国内における「太陽光発電」を含む新エネルギーの普及実態に関しては、 資源エネルギー庁が取りまとめた導入実績の報告があります.1997年度実績値によると、 合計で原油換算で701万klであり、 石油、 石炭、 原子力等を含む一次エネルギー総供給量の1.2%を占めています。 技術ごとの供給力ベースでみると、 紙.パルプ製造過程より排出されエネルギー利用される黒液.廃材等が全体の70%近くを占め、 次いで太陽熱発電,廃棄物発電となっています. エネルギー分野 1997年度 2010年度 (実績) (目標)太陽光発電 9.1万kW 500万kW風力発電 2.1万kW 30万kW温度差エネルギー等 3.7万kl 58万kl廃棄物発電 95万kW 500万kW太陽熱利用 104万kl 450万kl廃棄物熱利用 4.6万kl 14万klその他 489万kl 592万kl一次エネルギー総供給 701万kl 1,910万klに占める割合 (1.2%) (3.1%) 「風力」と「太陽光」の国際比較を示します.先のデータ等も踏まえると日本では「太陽光」の開発が優先されています.風力.太陽光発電の国際比較(単位万kW) 風力 太陽光 日本 3.8 13.3 ドイツ 257.9 5.4 アメリカ 205.5 10.0 イギリス 47.4 0.1 オランダ 42.5 0.6 中国 29.4 0.0 イタリア 15.5 1.8 スイス 0.0 1.2 世界合計 984.1 39.2 (出典:日本は新エネルギー.産業技術総合開発機構 NEDO,その他各国の風力は米団体(98年末) 太陽光は国際エネルギー機関IEA調べ(98年度末)) 新エネルギー.産業技術総合開発機構(NEDO)では新エネルギー技術開発関連で平成12年までに54テーマを実施し,約3,900億円を投入しています(出典:総務庁http://www.soumu.go.jp/kansatu/energy.htm).また,新エネルギー関係予算を原子力関係予算と比較したデータを以下に示します.原子力関係予算.新エネルギー関係予算の推移[単位:億円] 8年度 9年度 10年度 11年度 12年度 原子力関係予算 4,895 4,876 4,691 4,778 4,805 科学技術庁 3,571 3,547 3,372 3,371 3,201 通商産業省 1,257 1,252 1,243 1,317 1,520 外務省等 68 77 77 90 84 新エネルギー関係予算(通商産業省分) 479 560 748 875 925 注記)原子力関係予算:全省庁分.エネルギー分野の原子力研究開発予算を含む.電力移出県等交付金(全電源に係るもの)を含む.新エネルギー関係予算:通商産業省分.この他,各省庁による諸事業によって新エネルギーは推進されているが,全省庁分の予算については集計されたものはない.(出典:原子力円卓会議公開資料) これらのデータから通商産業省(現在の経済産業省)は短期間のうちに「新エネルギー」開発に関連する予算額を大幅に増加させていることがわかります.なお,科学技術庁(現在の文部科学省)の原子力関係予算には日本原子力研究所や核燃料サイクル開発機構関連分が計上されています. 日本の原子力予算が初めて計上されたのが1954年,日本原子力研究所や原子燃料公社(現在の核燃料サイクル開発機構)の設立は1956年のことで,既に50年近い歳月を経て現在に至っています.一方,新エネルギー開発の拠点であるNEDOが設立されたのは1980年で,20年を越えたばかりです. コスト競争力のある「新エネルギー」の実用化や社会への浸透には数10年に及ぶ時間と継続的な投資が必要であることを十分理解しておく必要があると思います. |