今回は,「地熱発電」について考えてみたいと思います. 「地熱発電」は実用化段階のエネルギーであり,「再生可能」な自然エネルギーとして位置付けることができます.エネルギーの源は,地球内部に蓄えられた豊富な熱エネルギーであり,その寿命は数十億年以上と考えれています.したがって,「水力」と同様に人類の時間スケールでは無尽蔵のエネルギー資源と理解することができます. この地球内部のエネルギーの一部を蒸気という形で取り出し利用するのが「地熱発電」です.「地熱発電」においても蒸気の力でタービンを回して発電するという基本原理は「火力」や「原子力」発電などと同様です.特徴は「地熱」発電では地球深部の熱によって作られた蒸気を利用しているため,蒸気を発生されるための燃料が不要という点です. 発電方法ごとのCO2排出量に関するデータを以下に示します.「地熱発電」は発電所建設時にエネルギーを消費しますが,実際の運転段階ではほとんどCO2排出がなく,前回の「水力発電」と同様に「クリーンエネルギー」の代表であることがわかります.1kWh当りのCO2排出量(単位:g-CO2/kWh)石炭火力 975.2石油火力 742.1LNG汽力 607.6LNG複力 518.8太陽光 53.4風力 29.5原子力 28.4地熱 15.0水力 11.3(出典:電力中央研究所「ライフサイクルCO2排出量による発電技術の評価」) 次に,現在国内で稼動中の地熱発電所を以下に示します.国内に地熱発電所は19基あり,数万kWクラスの比較的小型の発電所であることが特徴です.地熱発電所既設一覧(※自家用発電) 事業者名 発電所名 所在地 認可出力(kW) 日本重化学工業 ※松川 岩手県松尾村 23,500 九州電力 大岳 大分県九重町 12,500 三菱マテリアル ※大沼 秋田県鹿角市 9,500 電源開発 鬼首 宮城県鳴子町 12,500 九州電力 八丁原1号 大分県九重町 55,000 東北電力日本重化学工業 葛根田1号 岩手県雫石町 50,000 杉乃井ホテル ※杉乃井 大分県別府市 3,000 北海道電力,道南地熱エネルギー 森 北海道森町 50,000 大和紡観光 ※霧島国際ホテル 鹿児島県牧園町 100 九州電力 八丁原2号 大分県九重町 55,000 廣瀬商事 ※岳の湯 熊本県小国町 105 東北電力 秋田地熱エネルギー 上の岱 秋田県湯沢市 28,800 東北電力, 三菱マテリアル 澄川 秋田県鹿角市 50,000 九州電力, 九州地熱 山川 鹿児島県山川町 30,000 東北電力, 奥会津地熱 柳津西山 福島県柳津町 65,000 東北電力, 東北地熱エネルギー 葛根田2号 岩手県雫石町 30,000 九州電力, 日鉄鹿児島地熱 大霧 鹿児島県牧園町 30,000 九州電力, 出光大分地熱 滝上 大分県九重町 25,000 東京電力 八丈島 東京都八丈島 3,300 計 19基 533,250 (出典:資源エネルギー庁ホームページ) これら19基の地熱発電所からの発電や地熱自体の利用により一次エネルギーの0.2%程度が供給されています.一次エネルギー供給の推移(%) 1973年度 1990年度 2000年度(速報値) 石油 77 58 52 石炭 15 17 18 天然ガス 2 10 13 原子力 1 9 12 水力 4 4 3 地熱 0 0.1 0.2 新エネルギー等 1 1 1 (出典:資源エネルギー庁ホームページ) 日本における地熱発電の比率はそれほど高くありませんが,フィリピン,エルサルバドルやニカラグアでは発電量の14〜21%を占める極めて重要なエネルギー源となっています.ちなみに日本で開発可能な地熱資源は,既開発量の5倍以上と推定されているようです.これらの熱源は「再生可能エネルギー」として貴重なものとなるため,今後の活用が期待されます.各国の地熱発電割合 国名 地熱発電割合(%) アメリカ 0.3 フィリピン 20.6 メキシコ 2.4 イタリア 1.1 インドネシア 1.9 ニュージーランド 3.8 エルサルバドル 14.0 コスタリカ 5.7 アイスランド 4.7 ケニア 5.6 ニカラグア 15.3 (出典:日本地熱調査会「わが国の地熱発電の動向, 1997年版」 日本地熱調査会の調査(海外アンケート他) 海外電気事業統計(1996年版,データは1993〜1994末) WGC'95 General Reports and Country Updates GEOTHERMICS 1993. No.3) ところで「地熱」は一体どのように発生しているのかという素朴な疑問を感じました.東大・地震研究所の安田敦氏(http://www.d4.dion.ne.jp/~t.nagai/netu.htm#1)によると,地球は内部にいくほど高温になっていて,現在の地球では,地表から深さ100kmで1000℃程度,中心で6000℃ほどと考えられおり,内部から外に向かって熱の移動・供給が起きているそうです. 地球の熱源としては,地球形成時から蓄えられてきた熱,及び放射性元素が壊変する時に生じた熱があるとのことです. 微惑星が衝突・合体を繰り返して地球が現在の大きさまで成長する時には,大量の重力エネルギーが解放されこれが熱に変わり,また地球の中心に金属核が作られる際に解放された重力エネルギーも地球内部で熱になるようです. これらが地球形成の比較的初期に生産されて蓄えられてきた熱であるのに対して,ウラン,トリウムやカリウムなどの放射性元素の壊変エネルギーにより生じた熱は,初期地球と比べて熱生産量として現在では1/3程度に減ってはいるものの,今もなお生産され続けているとのことです.つまり,地球自体が誕生以来運転されている天然の原子炉と考えることができるかもしれません. |