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エネルギー(第6回)

水力発電

 今回は,「水力発電」について考えてみたいと思います.

 水力発電の仕組みは,ほとんどの方がご存知かと思います.水位の差を活かした発電方法で水が高いところから低いところへ流れ落ちるときのエネルギーを利用して発電機を回転させ,電気を起こす方法です.水を高いところに移す際に必要なエネルギーは資源として人類の時間スケールでは無尽蔵と考えることのできる太陽から得ていることになります.したがって,「水力発電」は実用化されている「再生可能エネルギー」の代表と言えます.

 石炭,石油や液化天然ガス(LNG)は燃焼による直接的なCO2排出が極めて多い発電方法です.一方,太陽光,風力,原子力,地熱,水力は直接的なCO2排出ではなく,発電を行うために必要な設備設置や運転に要する間接的なCO2排出が中心となります.以下に発電方法ごとのCO2排出量に関するデータを示します.「水力発電」はダム等の建設時にエネルギーを消費しますが,実際の運転ではほとんどCO2排出がなく,「クリーンエネルギー」の代表であることがわかります.

1kWhh当りのCO2排出量(単位:g-CO2/kWh)

石炭火力   975.2
石油火力   742.1
LNG汽力    607.6
LNG複力     518.8
太陽光      53.4
風力     29.5
原子力      28.4
地熱        15.0
水力        11.3

(出典:電力中央研究所「ライフサイクルCO2排出量による発電技術の評価」)

注)「汽力」発電とは水を熱し,そのときに発生する高温高圧の蒸気でタービンを回し,発電機を回して電気をつくる方式で,「複力」発電とは蒸気(水)の代わりに高温高圧に圧縮加熱したガスを使うガスタービン発電や,汽力発電とガスタービン発電を組み合わせたコンバインド・サイクル発電方式を意味します.


 水力発電所は河川に多数設置されています.これらの発電規模ごとの開発状況を下表に示します.一般的な火力発電所や原子力発電所の出力は10万~100万kW(電気出力)程度となっていますので「水力」発電所の出力は相対的に小さいものが多く,発電所の設置点が多いことが分かります.


出力区分別の水力発電所

出力区分        既開発                         工事中 
(kW)            地点   出力(kW)  電力量(MWh)   地点  出力(kW) 電力量(MWh)

 1,000未満       428     186,815   1,211,263    12     6,200    30,337 
 1,000~  3,000  407     726,545   4,143,355    11    19,800    93,521
 3,000~  5,000  163     614,415   3,310,534     7    29,300   128,987 
 5,000~ 10,000  284   1,920,750   9,976,228     4    27,600   114,700  
10,000~ 30,000  358   5,952,400  27,766,317     9   133,000   538,514
30,000~ 50,000   87   3,300,300  14,696,405     1    34,500   124,178 
50,000~100,000   66   4,328,600  16,793,990          87,000    90,000 
100,000以上    26   4,746,900  13,555,377         200,000   157,000

計             1,819  21,776,725  91,453,469    44   537,400 1,277,237  

(出典:資源エネルギー庁ホームページ)


「再生可能エネルギー」資源として有望な水力ですが限られた国土において無限に出力を拡大することはできません.このような水力発電の利用限界を「包蔵水力」という考え方で理解することができます.「包蔵水力」は発電水力調査により明らかとなった「水資源のうち,技術的・経済的に利用可能な水力エネルギー量」として定義されています.さらに「包蔵水力」は「既開発(これまでに開発された水力エネルギー)」,「工事中」および「未開発(今後の開発が有望な水力エネルギー)」の3つに区分されています.これらの区分ごとの発電所設置地点数等を以下に示します.

区分    地点数        最大出力(万kW)   年間可能発電電力量(億kWh) 

既開発   1,839       2,750             941 
工事中        45(△9)     94(△5)          15(△3)
未開発    2,735(△271)   2,007(△113)       476(△76)
合計       4,339          4,733            1,353 
(注:△は新規発電所の建設に伴い廃止となる発電所)

(出典:資源エネルギー庁ホームページ)


「包蔵水力」は非常に地域による偏在性が高いことが以下のデータから理解できます.これらは「水」が豊富な地域であり,自然に恵まれた地域であるからこそ「包蔵水力」が豊富という,当然のことを示しているようです.

都道府県別の包蔵水力データ

                          (単位:GWh) 
順位  都道府県名 包蔵水力  既開発   工事中    未開発 

1   岐阜    13,542     9,020     349     4,173 
2     富山       12,854    10,412      30     2,412 
3     長野       12,795     9,264      10     3,521 
4     新潟       12,210     8,576     271     3,363 
5     北海道      9,998     5,760       0     4,238 
6     福島        8,614     6,845     296     1,473 
7     静岡        7,152     5,883       5     1,264 
8     群馬        5,393     4,002       4     1,387 
9     山形        3,994     1,879      85     2,030 
10    宮崎        3,809     3,033       0       776 
 
(出典:資源エネルギー庁ホームページ)


 上記データを踏まえると開発が有望な水力エネルギーを利用することで現状の水力発電量の1.4~1.5倍程度までの増強は期待できそうです.

 2000年速報値(資源ネルギー庁)によると日本の一次エネルギーにおける水力の占める比率は約3%ですから,これを4~5%程度までの拡大は可能と考えることができます.同様に発電電力ベースでは「水力発電」の占める比率は約10%ですので,14~15%程度の供給を担うことは可能かもしれません.

 一方,未利用の「包蔵水力」の活用には別の問題が生じてしまいます.水力発電所の設置は「ダム」建設とも密接に関係があります.私自身,「水力」のことも「ダム」のことも詳しくありません.しかし,現在のダムは「多目的ダム」と呼ばれるもので治水(洪水対策),農業用水,水道,工業用水,そして今回のテーマでもある「水力発電」等を目的として建設されていることはある程度イメージとしてもつことができます.

「長野県」で話題になっている問題(「脱ダム宣言」等)も私なりに考えてみたいと感じました.現在の「ダム」論争も両極端な意見のぶつかりあいのように見えます.いずれにしても「長野」だけの問題としてではなく,私たち自身の問題として考える必要があるように思います.ちなみに「ダム」については「日本のダムのページ」(http://www.na.rim.or.jp/~donpapas/) が参考になりました.

 この他,「水力発電」の一つである「揚水発電」についても理解しておく必要があります.「揚水発電」は夜間電力などの余剰な電力を使って,下部のダム(調整池)から上部のダム(貯水池)に水を汲み上げ,それを再度下部の貯水池に落とすことで発電する方法のことです.電力消費のピーク時など電力の必要な時に有効活用することを目的として,24時間フル出力運転を行っている原子力発電等の夜間電力を利用した「揚水」が行われています.しかし,自然豊かな山奥に発電所や送電塔を建設するケースが多く,「ダム」と同様に問題となることが多いようです.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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