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No.062:環境(第10回)
オゾン層破壊
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No.061:環境(第9回)
酸性雨
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No.060:環境(第8回)
廃棄物処分と不法投棄
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No.059:環境(第7回)
土壌汚染
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No.058:年始のご挨拶(2004年)
日本の物質フロー
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No.057:環境(第6回)
水質汚染
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No.056:環境(第5回)
室内空気汚染
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No.055:環境(第4回)
大気汚染
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No.054:環境(第3回)
地球温暖化
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No.053:環境(第2回)
国内の物質フロー
No. 021 update 2002.07.01 PDF版(18.5 kbyte)
今回は,「原子力」について考えてみたいと思います. 「原子力」の利用に関しては議論が極端になりがちで扱いが難しいのですが,まず現状をできるだけ正確に理解しておくことが立場の相違を越えて大切と思います. まず,「原子力」とはどのような技術か,ということから考えてみたいと思います.これまで3回にわたり考えてきました「石油」,「石炭」,そして「天然ガス」は,形こそ違いますが,基本的に炭素と酸素の間で起こる「燃焼」という化学反応を経て熱エネルギーを取り出すことが基本原理となっています.これは目に見える現象で,生活の中でも「灯油」や「ガス」を燃やすことは日常的です. 火力発電所や自動車エンジンの場合でも直接見たことがなくてもどうやってエネルギーを発生させているか,というイメージはおぼろげながらも持てるように思います. 一方,「原子力」の場合には,この原理から既に理解し難くなっています.「原子力」でも燃料の「燃焼」という言葉は使いますが,「燃焼」の意味するところが違います.現在,実用化されている原子炉で「燃焼」と呼んでいるのは「核分裂」反応のことです.そして,「核分裂」反応を維持するのに都合が良い燃料として「ウラン」や「プルトニウム」という物質が利用されています.言葉としては比較的多くの方がご存知と思いますが,実感として捉えることのできる人はほとんどいないと思います. 化石燃料に限らず,「太陽エネルギー」や「風力エネルギー」等も技術の詳細は別としてイメージとしては身近なものです.実際,「太陽」でのエネルギー生産も「核反応」に基づくもので,自然界で生じた「原子力」ですが,「人」が介在していないことが最大の相違点です.「化石燃料」も過去の太陽エネルギーの形を変えた蓄積を利用している訳ですから,ある意味でエネルギーの起源は「核反応」にあると考えることもできます. 「原子力」を取巻く議論は,「自然」と「人為」の境界をどのように捉え,どこまでを社会として許容するかという極めて「倫理」的な色彩が強くなるのもやむを得ないと感じます. さて,「原子力」の現状ですが,原子力は主に発電という形で利用されています.「原子力発電所」で行われていること自体は,原理としては「火力発電所」と大差はありません.「火力発電所」では「石油」や「石炭」を燃やして熱を発生させ,この熱で蒸気を発生させてタービンと呼ぶ「羽根」を回します.この回転で「発電機」を駆動し電気を起こしています.最近は電池式が多くなってきましたが,自転車のライトを点灯するための「発電機」と原理は同じと思います. これに対して「原子力」発電では,前述のウランやプルトニウムの核分裂反応で生じたエネルギーを利用して蒸気を発生させている点が「火力」発電所とは異なります. 現在,日本国内で稼動している原子力発電所は以下のとおり52基あります.会社名 基数 出力[万kW] 日本原子力発電 3 261.7 北海道電力 2 115.8 東北電力 2 134.9東京電力 17 1,730.8 中部電力 4 361.7 北陸電力 1 54.0 関西電力 11 976.8 中国電力 2 128.0 四国電力 3 202.2 九州電力 6 525.8 (ふげん) 1 16.5 合計 52 4,508.2(出典:日本原子力産業会議,2001年3月) 1973年から最近までの主要国の電源別発電電力量の構成変化を以下に示します.このデータから日本においては先述の原子力発電所により1999年時点で全発電量の34%,すなわち電力の3分の1が「原子力」により生産されていることがわかります. 原子力 LNG 石炭 石油 水力他日 1973年 2 2 8 73 15 1996年 30 20 18 21 10 1999年 34 26 17 11 12 2004年 32 24 21 11 11 (見込み) 2009年 36 22 22 9 11 (見込み) 米 1973年 5 19 46 17 13 1996年 20 13 53 3 3仏 1973年 8 6 19 27 40 1996年 78 1 6 2 13独 1973年 3 11 69 12 5 1996年 29 9 55 1 6 英 1973年 10 1 62 26 1 1996年 27 24 42 4 3出典:OECD/IEA「ENERGY BALANCES OF OECD COUNTRIES (1995-96)」 日本の2004年および2009年見込みは電気事業連合会ホームページ 国内で利用しているエネルギーは「電力」だけではありませんので,「一次エネルギー」全体に占める比率としては1999年時点で約13%という状況です.日本の一次エネルギー供給構成の推移 原子力 水力 石炭 石油 天然ガス その他1973年 1 4 15 77 2 1 1979年 4 5 14 72 5 11999年 13 4 17 52 13 1(出典:総合エネルギー統計(平成12年度版)) 「原子力」で燃料として利用する「ウラン」にも他のエネルギーと同様に供給「資源」としての制約があります.「ウラン」は「化石燃料」と同様に地球上では偏在しています.ウラン資源確認可採埋蔵量オーストラリア 21(%)カザフスタン 19カナダ 10南アフリカ 8アメリカ 8ナミビア 7ブラジル 6ロシア 4ウクライナ 3ウズベキスタン 3その他 12 合計 442万トンU(1999年1月現在)(出典:OECD/NEA-IAEA 「Uranium(1999)」) そこで,日本では長期契約等により供給の安定化を図るとともに,海外ウラン資源の開発等に直接参加することで,より確固たる供給先の確保が検討されてきました.日本のウラン購入契約状況(2000年3月現在)長期契約,短期契約及び製品購入 カナダ,イギリス,南アフリカ,オーストラリア,フランス,アメリカ 契約数量 約252,800(U3O8ショート・トン)開発輸入分ニジェール,オーストラリア契約数量 約51,400(U3O8ショート・トン) なお,実際の燃料はこのような天然のウランを原料として用い,何ステップかの処理を経て原子炉で利用することになります.イメージとしては「原油」を精製して様々な「ガソリン」や「灯油」を得るのと同様に,「天然ウラン」の中から原子炉で利用しやすい「ウラン」を選別する工程が必要となっています. 大型(100万kW)クラスの発電所で1年間に用いるウラン燃料は約30トンです.他の化石燃料を用いる発電所で扱う燃料の量はおよそ100〜200万トンで4桁程度小さい値です.この桁違いに高いエネルギー密度は輸送や備蓄等の面では大きな長所となる一方,その発生エネルギーの大きさからある種の畏怖心が生まれることになっているようにも見えます. また,「化石燃料」と「ウラン」を燃やした後の状況の違いも理解しておく必要があります.「化石燃料」を燃やして出てくるのは理想的な状況では「二酸化炭素」と「水」です.今でこそ「二酸化炭素」は厄介物扱いですが,少し前まではほとんど気にせずに環境中に放出していました.現在でも環境中に放出していることが変わりませんが,少しでも削減しようという国際的な取組みが行われています. これに対し原子力で用いる「ウラン」の場合は状況が大きく異なっています.「ウラン」燃料の場合は燃えた後に「ウラン以外」の成分に変わり,その多くは「放射能」を有しています.これらの「放射能」を有する物質から「放射線」が放出されますが,これらの放射線は「生物」に様々な障害を引き起こします.このため,「放射能」を有する物質を「人間」を含む「生物」から隔離しておく必要がでてきます.例えば「放射性廃棄物」処分の問題では,「放射能」を有する物質を「生物圏」から如何にして隔離するかという点が重要な課題となります. さらに問題を複雑にしているのが,使い終わった「ウラン」燃料中に「ウラン」以外の成分でありながら,「ウラン」と同様な性質をもつ「プルトニウム」という物質が新たに産まれていることです.現在,運転中の原子力発電所で生産されている電力の約7割は「ウラン」によるものですが,残りの約3割は「プルトニウム」という物質によるものです.この「プルトニウム」をもっと積極的に利用しようという考えに基づき開発されたのが「高速増殖炉」(日本では「もんじゅ」)という原子炉です. 一方,現在稼動中の原子力発電所でもっと積極的に利用しようというのが「プルサーマル」(プルトニウムの「サーマル」利用といる意味で,現在稼動中の原子炉が「熱中性子炉」と呼ばれる原子炉であることから「熱」中性子炉=「サーマル」炉(すなわち現在稼動中の原子炉)で積極的にプルトニウムを利用しようという考え方です.) 私たちにとって「エネルギー」は極めて重要な要素です.現代社会は「エネルギー」供給が途絶えては機能できないものとなっています.「原子力」に限らず,「化石燃料」やその他の燃料資源もあくまでも「エネルギー」供給のための一つの「手段」にしか過ぎません.この「手段」の選択はある種の「国民的な合意」に基づくものである方が時代に合っているのかもしれません(その選択が新たな問題を引き起こす可能性についても十分理解していることが前提です).したがって,選択の議論は「感情的」なものではなく「論理的」な思考を踏まえたものであって欲しいと考えます.
[文責:スリー・アール 菅井弘]
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