No.062:環境(第10回)

オゾン層破壊

No.061:環境(第9回)

酸性雨

No.060:環境(第8回)

廃棄物処分と不法投棄

No.059:環境(第7回)

土壌汚染

No.058:年始のご挨拶(2004年)

日本の物質フロー

No.057:環境(第6回)

水質汚染

No.056:環境(第5回)

室内空気汚染

No.055:環境(第4回)

大気汚染

No.054:環境(第3回)

地球温暖化

No.053:環境(第2回)

国内の物質フロー

No. 018 update 2002.05.16 PDF版(20.7 kbyte)

エネルギー(第2回)

石油

 今回は,既存エネルギーの代表であり,現代文明の産みの親でもある「石油」について考えてみたいと思います.

 まず,普段何気なく「石油」と呼んでいるものが何かということから考えてみたいと思います.石油については石油情報センター(http://oil-info.ieej.or.jp/)のホームページにわかり易い説明がありますので大変参考になります.

 「石油」は,天然にできた燃える鉱物油とその製品の総称として定義できます.少し専門的な表現では,炭化水素を主成分にした液体ということになります.そして,地下から採取されたままの状態のものを「原油」,この原油を精製して製品化したものを「石油製品」と呼んでいます.
 
 「石油」は,数億年前の生物の死骸が化学変化を起こしてできた化石燃料であり,その起源に様々な説があるようですが,現在では「ケロジェン起源説」が有力とのことです.この説では,生物の死骸が海底や湖底に堆積し,その大部分が化石化してケロジェンと呼ばれる物質になり,長い間に地熱と地圧の影響を受け熟成されて石油に変化すると説明されています.

 このように「石油」は地球の歴史の貴重な遺産と言えるものですが,「資源」としての有限性をある程度認識しておくことが必要なものと考えます.そこで,世界の原油確認埋蔵量について把握することから始めたいと思います.ちなみに原油の埋蔵量をどのように規定するか国際的に統一されたルールはないようです.

原油確認埋蔵量・可採年数(1999年末)

               確認埋蔵量  可採年数
              (億バレル)  (年)

サウジアラビア        2,635    94
イラク            1,125    116
UAE              978          159
クウェート          965          140
イラン            897     71
ベネズエラ          726     71
リビア            295     60
その他OPEC          404     22

旧ソ連・東欧         591     22
メキシコ           284     27
中国             240     21
アメリカ           210     10
イギリス・ノルウェー   159          8
その他非OPEC      672          14

世界合計        10,160       43

(出典:OGJ(オイル・アンド・ガス・ジャーナル)の統計)

 ここで,注意が必要なのが「可採年数」という用語です.この数値は「石油があとどのくらいあるか」という目安の一つとして使われるもので,ある年の年末の確認埋蔵量(Reserve)をその年の年間生産量(Production)で割って算出した値です.上記統計で言えば1999年末における「可採年数」は43年となります.

 しかし,この数値は技術進歩による新規油田の発見や回収率の向上が予想されるため,可採年数も維持・増加が実現されてきました.これが,いつまでも経っても石油資源が減らず,つい有限であることを忘れてしまう原因かもしれません.

可採年数の推移

年      1970  1973  1975  1980  1983  1987  1992  1998  1999 
可採年数  35.7  30.1  33.1  28.7  33.4  41.5  43.1  43.0  43.0


 しかし,このような状況も変化しつつあり,1992年から1999年までの可採年数がほぼ一定となっていることに注目しておく必要があります.この間ではその年に生産した分を賄うことのできる新規油田や回収率の向上が達成できてきたと理解できます.逆の見方をすると技術進歩が著しい今日の探査や採掘技術を駆使しても可採年数を維持するのがやっとということです.

 かつて「石油ショック」と呼ばれるできごとが1973年(第一次石油ショック)と1978年(第二次石油ショック)が発生しました.第一次石油ショックの発端はイスラエルとアラブ諸国間で勃発した第四次中東戦争でした.第二次石油ショックは革命によるイラン国内での原油生産の激減が原因でした.

 第一次及び第二次石油ショック時の原油価格はそれぞれ5倍及び第2.3倍に上昇しました.これらは資源供給量の制約が原因で発生した出来事ではなく,国際及び国内紛争による政治的な問題が原因で生じた事態と考えることができます.したがって,一時的な出来事として捉えることができます.最近の中東情勢等を考慮すれば,同様の事態が近い将来再現される可能性は否定できません.

 しかし,この種の資源制約と直接関係しない事態は一時的な需給バランスの混乱と理解することができます.したがって,これらは石油の「備蓄」や輸入経路(輸入比率は99.7%)の変更等である程度緩和することができます.日本ではこの種の危機に対応するためほぼ半年分の石油備蓄が達成されています.

     民間備蓄 国家備蓄 合計 (単位:日)

1973年  67    0     67
1979年  81    7     88
1985年  97    31    128
1990年  89    55    144
1995年  81    76    157
1998年  80    82    163
1999年  79    85    164

(出典:資源エネルギー庁)


日本の国別原油輸入量構成比(1998年度)

アラブ首長国連邦   28.0%
サウジアラビア    20.5%
イラン        11.3%
カタール       9.1%
クウェート      5.7%
オーマン       5.4%
その他中東地域    6.2%
(中東地域        小計 86.2%)
インドネシア     5.7%
中国         2.8%
ブルネイ・マレーシア 1.8%
その他東南アジア   1.1%
(東南アジア地域 小計 11.4%)
その他メキシコ等   2.4%

(出典:通産省「エネルギー生産・需給統計年報」)


 したがって,幸いにも比較的需給が安定している今日,十分検討しておく必要があるのは,いずれ直面する可能性のある「資源制約」に起因する需給バランスの混乱が生じた場合への対策です.

 このような状況を理解するため,「究極資源量」について考えてみたいと思います.正確なデータというのは当然ないわけですが,石油鉱業連盟の研究報告では1995年末時点で以下のように推定されています.

原始埋蔵量        約7.5兆バレル
究極可採埋蔵量      約2.1兆バレル
既生産量         7,567億バレル
残存確認埋蔵量      9,154億バレル(40.5年)*
採油増進技術による回収量 1,700億バレル(7.5年)
未発見潜在量       4,000億バレル(17.7年)
(出典:石油鉱業連盟)
*OGJのデータとは若干異なっています

 すなわち,現時点では今後約65年分の石油資源の供給を期待できそうですが,これはあくまでも年間消費量が現状程度の場合ということです.これまで石油消費量の少ない国々が大量消費を開始すれば,もっと早い時点で「資源制約」に直面する可能性があります.エネルギー問題については比較的冷静な対応が可能な今後の20〜30年が極めて重要と思えてなりません.


 次に石油の用途について考えてみたいと思います.石油は「一次エネルギー」として熱源(約40%)や動力源(約40%)と利用される他,約20%程度はプラスチックなどの化学製品の原料として使われています.製油所に運ばれてきた原油は,蒸留装置や分解装置によって,ガソリン,灯油,軽油,重油などに変わります.具体的には石油の蒸気を以下の温度で蒸留して様々な製品を製造しています.

      留出分の名称     用途例

常温     LPガス                タクシー,ガスレンジ
30〜180℃  ガソリン・ナフサ   自動車,石油化学製品
170〜250℃ 灯油・ジェット燃料  石油ストーブ,ジェット機
240〜350℃ 軽油         トラック,バス
350℃以上  重油・アスファルト  船,火力発電所


 日本における石油製品の年間消費量は約2億4,000万kL,一日当たりにすると約66万KLで,これは25万t級大型タンカーの約2.4隻分に相当するそうです.日本の人口を約1億2,600万人とすると日本人一人当たり5.2L/日,すなわち一日当たり牛乳パック5.2本分の石油を消費している計算になるようです(出典:石油情報センター).

 そして石油の消費により,最近問題になっている温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)が発生します.CO2ガスはLPG,石油(1990年国内CO2排出実績では約2/3が石油起源)やLNGにより排出されており,その排出量の合計を国別排出割合に比較すると以下のようになっています(1995年).

       排出割合(%)

アメリカ   24.1
中国     13.8
ロシア    7.1
日本     5.3
ドイツ    4.1
インド    3.7
イギリス   2.6
カナダ    2.2
ウクライナ  2.0
イタリア   1.9
フランス   1.7
その他OECD  10.8
発展途上国  20.7

(出典:環境庁「環境白書」)


 温室効果ガスの低減については,1997年12月に開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(いわゆるCOP3)で採択された「京都議定書」の中で国際的な目標が定められました.CO2については1990年を基準年として,日本は6%の削減を目標として設定しました.第1期の約束期間は2008年から2012年までの5年間で,目標達成ができない場合に次期約束期間への繰越しが認められているようです.ちなみにこの議定書は日本政府の提案がベースとなっています.

 そこで日本では2010年のCO2排出量を90年レベル(炭素換算で約3億トン)に安定させることを目標に取組むことが必要です.ここで世界の平均値が一人当り年間1トンであるのに対して日本では一人当り2.5トンのCO2を排出していることを理解しておく必要があります.ちなみにアメリカは一人当り約5トン排出しています.また1990年(基準年)から2000年までに日本のCO2排出量は削減されるどころか10%程度増加しています.すなわち1990年基準では今後2010年までに16%以上の排出削減が必要ということになります.

 この目標は,排出権取引等で他国から排出権を購入することで軽減できますが(自国の排出低減ではありません),このような手法に依存せず,目標を達成することが本来の姿とも思えます.数字の辻褄あわせではなく,エネルギー供給及び需要の本質的な見直しが急務と思えてなりません.

 「石油」は,資源として有限なものでいつか枯渇するものです.したがって,このような貴重な資源をできるだけ有効に活用する視点が重要です.一方で,石油消費に伴って発生するCO2の問題もあります.少なくとも日本では,できるだけ石油の消費量を抑制する努力をこれまで以上に行う必要があるようです.


追伸:

 読者の方から「エネルギー」を対象とする際の議論展開に関する貴重なご意見をいただきました.私自身,特性の異なるエネルギーを比較して論じることは非常に無理があると感じています.このため,「エネルギー」をテーマにした議論において論点が曖昧となる点が多々生じてくるかと思いますが,何卒ご容赦いただければと思います.

 また,「地熱エネルギー」に関する言及を全く行っていない点もご指摘いただきました.今回のテーマとして「地熱エネルギー」も対象に加えさせていただくことにします.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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