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No. 014 update 2002.03.15 PDF版(17.6 kbyte)

30年間の変化(第11回)

安全

 今回は30年間の変化(第11回)として「安全」について考えてみたいと思います.

 「安全」とは何かと問われて良く理解していないことに気づきました.岩波の国語辞典では「あぶなくないさま.物事が損傷・損害・危害を受けない,または受ける心配のないこと」となっています.「安全」とともに「安心」という言葉を良く耳にします.この「安心」は,「気にかかる事がなく,またはなくなって,心が安らかなこと.また,物事が安全・完全で他人に不安を感じさせないこと」と説明されています.

 まず,「安全」を考える上で重要な現代社会における「死因」について調べてみました.1960年以降の国内での死因に関するデータを以下に示します.どのような形は理想と言えるのかはわかりませんが,「老衰」は一つの姿と考えることができます.20〜40年くらい前までは「老衰」が統計的に上位にありましたが,近年では姿を消しています.

死因順位(第5位まで)

   1位    2位      3位    4位      5位

1960 脳血管疾患 悪性新生物 心疾患   老衰      肺炎及び気管支炎 
1965 脳血管疾患 悪性新生物 心疾患     老衰           不慮の事故 
1970 脳血管疾患 悪性新生物 心疾患    不慮の事故     老衰 
1973 脳血管疾患 悪性新生物 心疾患    不慮の事故    肺炎及び気管支炎 
1975 脳血管疾患 悪性新生物 心疾患     肺炎,気管支炎  不慮の事故 
1980 脳血管疾患 悪性新生物 心疾患     肺炎,気管支炎  老衰 
1982 悪性新生物 脳血管疾患 心疾患     肺炎,気管支炎  不慮の事故,有害作用
1985 悪性新生物 心疾患     脳血管疾患 肺炎,気管支炎  不慮の事故,有害作用 
1990 悪性新生物 心疾患     脳血管疾患 肺炎,気管支炎  不慮の事故,有害作用 
1995 悪性新生物 脳血管疾患 心疾患     肺炎           不慮の事故 
1996 悪性新生物 脳血管疾患 心疾患     肺炎           不慮の事故 
1997 悪性新生物 心疾患     脳血管疾患 肺炎           不慮の事故 
1998 悪性新生物 心疾患     脳血管疾患 肺炎           不慮の事故 
1999 悪性新生物 心疾患     脳血管疾患 肺炎           不慮の事故 
2000 悪性新生物 心疾患     脳血管疾患 肺炎           不慮の事故 

(出典:厚生労働省・人口動態統計)


 意外だったのは「肺炎」が上位にあることでした.これは「喫煙」や「大気汚染」との関係があるのかもしれません.ちなみに最大の死因は「悪性新生物」となっています.これは様々な有害物質の発癌性が問題視されていることからも頷けます.

 また,一般に「事故」と呼ばれる死因は以下のとおりです.

             総数    男     女 

交通事故                 12,857    9,072    3,785 
転倒・転落                6,245    3,798    2,447 
不慮の溺死及び溺水        5,978    3,332    2,646 
不慮の窒息                7,794    4,375    3,419

煙,火及び火炎への曝露    1,416      883      533 
有害物質による不慮の中毒
及び有害物質への曝露        605      415      190 
その他の不慮の事故        4,589    3,287    1,302 

自殺                    30,251   21,656    8,595
他殺                       768      426      342
その他の外因        3,302    2,064    1,238 

(出典:厚生労働省・人口動態統計)


 ところで,冒頭で述べた「安全」と「安心」という二つの言葉は似て非なるもののようです.統計的に「安全」なことでも「安心」できない場合もありますし,逆に「安全」ではないのに「安心」していることがあるように思います.私自身で言えば「航空機」に乗ることは今ひとつ「安心」ではなく,妙な決意が必要です.一方,「自動車」には毎日平気で乗っています.自分でも矛盾と思いつつ,なかなか気持ちを変えることができません.

 このように各個人の主観に依存する「安心」に対する感覚は必ずしも論理的ではないように感じています.「安心」感は各個人の価値観に従って左右されるため,「安心」に対する感覚を共有することは難しいのかもしれません.しかし,知識として「安全」に関するデータを知っておくことは無駄ではないと考えます.「安全」を数値化したものではありませんが,「リスク」を数値化したものが参考になります.

 東京大学生産技術研究所・安井至氏のホームページ「市民のための環境学ガイド(http://plaza13.mbn.or.jp/~yasui_it/)」では米国での例として以下のデータが掲載されています.

死亡・傷害などの可能性

家庭内事故(米国)毎年
*60人以上が家庭の配線や家電製品で感電死
*家の中での転倒事故で,8,500名が死亡,200万人が怪我
*しかし,そのような事故にあるのは70歳以上が多い
*トイレや洗面所で怪我をする人が60,000人
*シャワーで怪我をする人が170,000人
*剃刀で40,000人怪我
*洋服のファスナーなどで怪我をする人が140,000人
*宝飾品で怪我をする人5,500人
*自殺者を含める銃による死者が30,000人

交通事故(米国)毎年
*交通事故で死ぬ人数が毎年40,000−45,000人
*飛行機事故は平均93人
*溺死3,900人
*自転車813人(走行キロ当たりにすると自動車よりリスク大)

確率での表現:100万分の1の確率で人々を死に追いやる行為
*タバコを1.4本吸う
*炭坑で1時間過ごす(塵肺などの労働環境)
*カヌーを6分間漕ぐ(事故)
*ピーナッツバターを大匙で40杯(アフラトキシンによる肝臓ガン)
(参考:アフラトキシンは発癌性の高いカビ毒の一種とのことです)
*石造り,レンガ造りの家に2ヶ月住む(ラドン)

寿命の短縮による表現
*タバコ1本吸うと寿命が12分縮まる
*シートベルトをしないで運転すると6秒
*ダイエット飲料を飲むと9秒

死に至るリスクの積算年数
*飛行機事故にあうには,2,300年毎日乗り続ける必要あり

何倍という表現
*喫煙者が肺がんに掛かる確率は非喫煙者の30倍


 最近は企業経営の観点から「リスク管理」が叫ばれており,「リスク」という言葉は比較的馴染みのある言葉になりました.しかし,「リスク」という概念はなかなか感覚的に理解することはできません.「リスク」を感覚的に理解できるようにならないまでも,ある程度客観的に捉えることができるようになることが当面の課題ではないか,と感じています.

 今から30年ほど前にドイツの経済学者シューマッハーは,『スモール・イズ・ビューティフル(小さいことはすばらしい)』という著書の中で「人間の背丈」にあった技術を基盤とする生活を主張しています.これは資源等の制約から社会の恒久的成長の持続に対する問題点を指摘したローマクラブの「成長の限界」にも共通する面があります.しかし,現代社会は「背丈」にあった「技術」で対応できないほど既に「肥大化」してしまったように見えます.

 「原子力」,「化学物質」や「バイオテクノロジー」は,潜在的な「リスク」を伴う形で日常生活と深く関係しています.これらの技術を今後どのように扱うかは,私たちが今後どのような社会の構築を目指すのか,という根本的な問題と表裏の関係にあるようにも思えます.「経済至上主義」社会からの離脱も視野に入れた新たな社会像の構築が求められているのかもしれません.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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