No.002:将来の社会像(第1回)

将来の社会像(第1回)

No.001:発行にあたって

発行にあたって

No. 012 update 2002.02.15 PDF版(17.3 kbyte)

30年間の変化(第9回)

交通

 今回は30年間の変化(第9回)として「交通」について考えてみたいと思います.

 人の移動や物資の輸送などの交通運輸は,社会を支える重要な基盤の一つです.このような交通手段の中で1880年代にヨーロッパで発明され,1970年代前半にアメリカを中心として量産化が進んだ「自動車」は,いま世界全体で約7億台が保有されるに至り,陸上交通の主役として世界を変える働きをしています.また,「航空機」も大型化が図られ,海外へ出かけることも特別なことではなくなりました.この他,「鉄道」や「船舶」も社会の中で重要な役割を果たしています.これらの中で,今回は「自動車」と「自転車」について考えてみたいと思います.

 まず,「自動車」から考えてみたいと思います.仕事や遊びにおける移動や輸送手段として,自動車は他の交通手段に比べ飛躍的に便利かつ快適であることは間違いありません.自動車検査登録協力会(http://www.aira.or.jp/)のデータによると1970年から2001年までの国内における自動車保有台数は一度も減少することなく毎年増加を続けていることがわかります.大雑把にみて10年ごとに約2千万台増加しています.

     保有台数

1970年  16,528,521台
1980年  37,333,250台
1990年  57,993,866台
2001年  75,524,973台

 自動車工業の成長の様子を生産面及び貿易面から見てみると,まず自動車の生産台数は,1960年代半ばに欧州諸国を上回り,1980年には米国を上回るようになっています.また,自動車の輸出台数について見ると1970年代半ばから世界第1位になっています. 

 一方,自動車交通の発達がもたらした負の資産として,交通事故による多数の死傷者の発生,都市を中心として発生する慢性的な交通渋滞,交通の振動騒音やCO2,NOx,SOxなどの排出による環境劣化があります.自動車事故による死者は,現在,世界全体で年間およそ60万人と推定されています.日本では1970年の16,765人を最高として1980年ごろまでにほぼ半減し,その後の横ばい・増加を経て最近は漸減の傾向にあります.1999年の全国年間死者数は9,005名でしたが,事故件数と負傷者数はいずれも増加傾向にあり,それぞれ,年間80万件と100万名を越えています.

 また,国土交通省によると道路交通需要の大きな伸びや首都高速都心環状線にみられるような通行量の6割を通過交通が占めている等の非効率な道路利用により,道路交通渋滞は深刻化しています.全国で年間に発生する渋滞損失は約12兆円,国民一人当たりの年間損失時間は約42時間にのぼると報告されています.

ちなみに渋滞損失額が多い都道府県と少ない都道府県の各10位までを以下に示します.

順位  都道府県名  1km当たりの渋滞損失額(万円/年間)

1     東京都      6,710 
2     大阪府      3,894 
3     沖縄県      2,261 
4     神奈川県    2,078 
5     京都府      1,815 
6     福岡県      1,304 
7     愛知県      1,296 
8     千葉県      1,278 
9     滋賀県      1,216 
10    埼玉県      1,215 

順位 都道府県名  1km当たりの渋滞損失額(万円/年間)
 
1     岩手県       475 
2     島根県       508 
3     鹿児島県     537 
4     福島県       549 
5     北海道       558 
6     宮崎県       561 
7     秋田県       629 
8     青森県       632 
9     鳥取県       647 
10    大分県       659 


 一般論から言えば,最も効率的な投資は損失額の大きな都道府県の渋滞を優先して軽減することと思いますが,高速道路建設についての議論でも明らかなとおり政治がらみの問題は解決が容易ではないのかもしれません.
 
 ちょっと本論から外れますが,個人的に日頃から気になっている交通信号機について考えてみたいと思います.1996年の警察庁データによると国内には157,792基の信号機が設置されているそうです.信号機は安全を確保する上で極めて有効な手段と思いますが,一方で過剰な設置は渋滞の原因とならないまでも損失の一因となります.各国の信号機設置数に関するデータがないのでわかりませんが,日本の設置数がかなり多いような気がします.時には視界が良好で,交通量も多くない交差点でも信号機が設置されているのをよく見かけます.

 交差点に信号機がつきものの日本に比べイギリスなどのヨーロッパでは「Roundabout(ロータリー)」を見かけます.このような構造の交差点はルールを守らないと必ず事故に結びつくやり方とは思いますが,交差点での流れを妨げない方法として極めて興味深く感じています.同様な構造の交差点を導入するには自動車を運転するに際しての一定レベルの運転技量や交通ルールに対する厳格な認識が不可欠とは思います.

 日本の道路には制限速度は表示されていますが,本当の制限速度は良くわかりません.交通ルールが曖昧な国でロータリー形式の交差点を設置するのは無理があるのかもしれませんが,横断歩道等への配慮を必要としないような交差点では信号機一辺倒でない別の仕組みも考えてみる価値があるように思えてなりません. 


 次に「自転車」のことを考えたいと思います.都市生活において「自転車」が「自動車」に代わる魅力的な交通手段になる可能性があります.健康面での利点は言うまでもなく,渋滞,大気汚染を削減できます.渋滞解消になるのは,単純に車1台分の空間に自転車なら10台近くは収容できるからです.

 また,自転車用道路は自動車専用道路よりもはるかに多くの人の移動を可能にします.多くの都市にとって魅力ある自転車ですが,実際に走りやすい環境が整備されている訳ではありません.現在の道路は「自動車」と「歩行者」を対象としており,「自転車」は考慮外というのが実状と思います.そこで具体的な数字として国内における自転車道の整備状況を以下に示します.

日本の自転車道等の整備状況

1971年    1,197 km
1975年    10,558  (  338)
1980年   29,612  (  965)
1985年   44,957  (1,179)
1990年  65,681  (1,530)
1995年  89,231  (1,924)
1997年   99,313  (1,978)

 
 各年4月1日の現況/延長は,延べ延長/自転車道等とは,自転車道,自転車歩行者道,自転車専用道路および自転車歩行者専用道路を示しています/( )内の数字は,内書きで,歩道と構造的に分離された自転車道のことです

 日本の自転車道路の整備はこの30年間で飛躍的に進んでいます.しかし,平成11年4月1日現在の一般道路の総延長は1,155,439kmとされており,自動車道路と比較すると自転車道の整備は未だに不十分です.私の住む仙台市は人口が約100万人の地方都市ですが,市街地には万年渋滞の道路も多く道路整備や拡張工事が積極的に行われています.

 しかし,道路を拡張すると交通量がさらに増えるという悪循環に陥っているようにも見えます.誤解かもしれませんが自動車道路の拡張に比べて,自転車道の整備や駐輪場の確保に対してはそれほど熱心ではないように感じます.これは決して仙台市に限ったことではありません.

 繁華街周辺は駐輪場の不足から歩道上での違法駐輪が多く強制撤去が頻繁に行われています.これはある意味で自然の成り行きとも言えます.駐車場はいたるところにあるのに,駐輪場は極めて限られた場所にしかありません.しかも,地下設置型がほとんどでしかも有料です.利便性を無視した駐輪場の設置では根本的な解決策にはなりません.

 街中には駐車場から駐輪用に転用できるスペースは十分にあります.道路を拡張するよりも遥かに小さな投資で駐輪場の整備は実現できるように思えてなりません.自治体が民間運営の駐輪場の設置を積極的に支援することも有効な解決策と思います.

 様々な制約から政策の転換が容易でないことは理解できますが,より整合性のある解決策の実現に向けた今後の積極的な取組みを期待したいと思います.道路の拡張や整備以上に公共交通機関の利便性の改善,自転車道の整備や駐輪場の確保の方がはるかに時代の流れに合致しているように思います.


 以上,「交通」という観点から少しだけ整理してみました.この30年間の様々な交通手段の発達により私たちの生活は格段に便利になりました.特に「自動車」の発展は本当に私たちの生活を豊かなものにしてくれました.しかし,「道路」との関係から言えば,特に都市部での「自動車」利用は飽和状態に近づいているのではないかと感じています.今後,「自動車」に限らず「鉄道」,「航空機」,「船舶」,そして「自転車」等を適材適所に活用し,部分的な便利さの追求ではなく,交通「システム」全体を考慮した新たな交通網構築の必要性が高まっているように思います.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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