No.012:30年間の変化(第9回)

交通

No.011:30年間の変化(第8回)

再生可能エネルギー

No.010:30年間の変化(第7回)

電力

No.009:30年間の変化(第6回)

エネルギー

No.008:30年間の変化(第5回)

経済

No.007:30年間の変化(第4回)

工業製品

No.006:30年間の変化(第3回)

食料

No.005:30年間の変化(第2回)

No.004:30年間の変化(第1回)

No.003:将来の社会像(第2回)

将来の社会像(第2回)

No. 007 update 2001.12.01 PDF版(14.2 kbyte)

30年間の変化(第4回)

工業製品

 今回は30年間の変化(第4回)として「工業製品」について考えてみたいと思います.ところで代表的な工業製品とは一体何でしょうか?改めて考えるとあまり明確でないことに気付きました.そこで妥当かどうかはわかりませんが,個人的なイメージにもとづき「鉄鋼」,「家電」,「電子機器」を例として考えることにしました.なお「自動車」は重要な工業製品ですが別の機会に考えることにします.

 まず「鉄鋼」です.主要国の粗鋼生産量のデータが以下に記載されています.
http://www.sekainenkan.com/2001/8/998_018.HTM

  中国,日本,アメリカが3大生産国で各々年間1億トン程度,これをロシア,ドイツ,韓国が年間5,000万トンを若干下回る程度で追っている構図が理解できます.また,日本の粗鋼生産量の推移を見ると1970年で8,000万トン前後,1980年以降はほぼ1億トン前後で推移しています.

 国内の鉄鋼業で言えば戦後の国策であった「傾斜産業」方式による成長は1980年前後にほぼ飽和しているようです.これは世界的にも共通の状況で年間の需要量はほぼ飽和状態にあり今後の大幅な伸びは期待できません.このような環境の中で,「鉄鋼」業界が直面している不況が一時的なものではなく,構造的なものであるということが推察できます.すなわち業界としての今後の展開は「量」の拡大ではなく,「質」の改善と思います.

 次に,現代産業の中心的な役割を担っている「家電」ですが,その生産額・輸出額の推移データとしては以下が参考になります.
http://www.meti.go.jp/hakusho/chusyo/H07/3-2-65z.htm

 このデータによると30年前(1970年頃)には生産額として2兆円前後でしたが1985年前後には6兆円規模まで拡大しています.しかしその後は伸び悩み6〜8兆円の間で上下しています.ただし,これらのデータは生産「額」であり生産「量」ではありません.生産「量」の比較となると個々の製品ごとに考える必要があります.

 国内での売れ筋の「家電」製品はこの30年間で大きく変化しました.高度成長期には冷蔵庫・洗濯機・テレビが「三種の神器」でしたが,その後,3C,すなわちカラーテレビ・カー・クーラーが「新三種の神器」として急速に普及してきました(自動車を「家電」と言えるかどうかは疑問ですが).これら「家電」製品の生産量,販売量等の短期的な推移データは容易に見つけることができるのですが,1970年から2000年までの変化のような長期間の推移を示すデータに出会うことができませんでした.

 なお,最近の家電リサイクル法の関係から以下のホームページにここ15年間の国内販売台数のデータがありました.
http://www.jwrf.or.jp/new/11/10.html

 これを見ると「カラーテレビ」「電気冷蔵庫」「電気洗濯機」についてはここ10数年では微増程度ですが,「ルームエアコン」については1984年から1995年までの間に2倍以上に拡大しています.いずれにしても家電製品の需要も一部を除いてかなりほぼ飽和状況にあるようです.

 また「家電」製品との境界が明確ではありませんが,「電子」製品について調べてみました.「電子」製品として身近なものは「パソコン」や「携帯電話」で,これらはここ数年で大幅な市場の成長がありました.

比較的最近のパソコン国内出荷台数に関するデータは以下のとおりです.

1992年 1,766千台
1995年 5,704千台
1996年 7,192千台
1998年 7,200千台
1999年 7,800千台

1992年前半に急拡大したこの市場も1996年以降停滞気味のようです.

一方,携帯電話の国内生産台数に関するデータは以下のとおりです.

1996年 22,110千台
1997年 29,840千台
1998年 33,990千台
1999年 70,790千台

また,携帯電話の契約者数の推移は以下のとおりです.

1996年 20,877千人
1997年 31,527千人
1998年 41,530千人
1999年 51,139千人
2000年 60,942千人

 OECD加盟国の人口100人当たりの携帯電話利用者数で見ると1999年時点で日本は44.9人で,11位に位置しています.トップのフィンランド(携帯電話のノキア社が有名)は61.5人ですから,契約者数の変動および海外実績から見てここ数年程度はまだ成長が期待できそうです.

 また,日本の重要な電子部品製品としては「DRAM」があります.DRAMとはDynamic Random Access Memoryの略で,パソコン用のメモ帳に相当するメインメモリ(情報を蓄える所)として一般的に使われています.今から30年前の1970年頃のメモリ容量は1Kでしたが現在はギガ(G)のレベルに進歩しています.これは30年間で100万倍以上に技術開発が進展したことを意味し,正に桁違いです.

 DRAMを巡る最近の状況は以下の記事が参考になります.
http://ma.nikkeibp.co.jp/MA/guests/release/0001_03/000218dram.htm

 これによるとDRAM市場は非常に国際競争が厳しく,2000年は米Micron Technology社,韓国サムスン電子,韓国現代電子産業,ドイツInfineon Technologies社の4社が上位を独占し,ビット換算の生産量シェアは合計で約70%に達しています.一方,日本メーカーのシェアは約25%となり,1995年の約47%から大幅に落ち込んでいます.国内の半導体不況が騒がれる所以です.このため日本メーカーはDRAM依存から脱却し,携帯電話市場や民生機器向けに軸足を移しているようですが,携帯電話市場でさえ長期的な成長余地はないようにも見えます.

 今回はいくつかの工業製品の動向を見てきましたが,いずれにしても今後,工業製品の生産を高度成長期のように拡大することができないのは明らかです.長期不況脱出の切り札として考えられたIT革命も「ハードウェア」の市場拡大による効果に期待し過ぎていたように思います.あくまでも個人的な見解ですが今回の不況はあまりに「ハードウェアに偏った生産拡大路線の行き詰まりに起因しているように思えてなりません.

 この不況を脱出する根本的な処方箋は「ハードウェア」産業以外の育成で,例えば「農業」,「ソフトウェア」,「福祉」等の分野と思います.「ハードウェア」から「人」を重視した産業への転換がポイントと考えています.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

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