No.012:30年間の変化(第9回)

交通

No.011:30年間の変化(第8回)

再生可能エネルギー

No.010:30年間の変化(第7回)

電力

No.009:30年間の変化(第6回)

エネルギー

No.008:30年間の変化(第5回)

経済

No.007:30年間の変化(第4回)

工業製品

No.006:30年間の変化(第3回)

食料

No.005:30年間の変化(第2回)

No.004:30年間の変化(第1回)

No.003:将来の社会像(第2回)

将来の社会像(第2回)

No. 006 update 2001.11.15 PDF版(13.4 kbyte)

30年間の変化(第3回)

食料

 今回は30年間の変化(第3回)として「食料」について考えてみたいと思います.
食料については,自給状況を示すデータが農林水産省の食料需給表として下記のホームページの中で報告されています.
http://www.maff.go.jp/jukyuhyou.html

 この食料需給表はFAO(国際連合食糧農業機関)の食料需給表作成の手引きに準拠して毎年度作成されており,FAO及びOECD(経済協力開発機構)に報告されているデータです.この中に国民1人・1日当たり供給熱量の推移データがあり,具体的に30年前と昨年のデータを比較すると以下のようになっています.

1970年
 
米 927.6
畜産物 223.0   
油脂類 227.1
小 麦 310.3
いも類・でんぷん 115.0
砂糖類 282.6   
魚介類 102.0   
その他 341.4   
計 2,529.0(kcal)

2000年

米 635.5
畜産物 399.4   
油脂類 370.0
小 麦 324.3
いも類・でんぷん 209.3
砂糖類 210.2   
魚介類 129.6   
その他 323.8   
計 2,602.1(kcal)

 上記データは,日常生活を振り返ると妙に納得できるものです.摂取エネルギーの総量は若干増加という状況ですが内訳は大きく変化しています.米によるエネルギー摂取が30%程度減少し,畜産物や油脂としての摂取が増加していることが示され,食生活の欧米化が伺えます.意外だったのは砂糖類としてのエネルギー摂取の減少で,これは人工甘味料等の利用が進み砂糖類以外に分類される項目での摂取比率が増加したためかもしれません.

 次に日本における食料自給率について,穀物自給率,主食用穀物自給率,供給熱量総合食料自給率および金額ベースでの食料自給率に関するデータを以下に示します.

1970年
 
穀物自給率 46%
主食用穀物自給率 74%
供給熱量総合食料自給率 60%
金額ベースの食料自給率 80%

1999年 

穀物自給率 27%
主食用穀物自給率 59%
供給熱量総合食料自給率 40%
金額ベースの食料自給率 72%


 この数字をどのように解釈すべきかよくわかりませんが,供給熱量総合食料自給率の40%は極めて危険な水準というように思います.もし食料の海外からの輸入が途絶えると国民一人当たりのエネルギー摂取量の60%が不足することを意味します.

 比較のため諸外国の供給熱量ベースに自給率のデータが見てみますと,平成10年の試算ではオーストラリア309%,カナダ159%,フランス141%,アメリカ132%,ドイツ100%,スペイン93%,イギリス78%,イタリア77%,スイス60%となっています.また,日本,イギリス,ドイツおよびフランスにおける供給熱量自給率の推移データがあり以下のようになっています.

1970 1980 1990 1998

日本 60 53 48 40 (%)
イギリス 46 66 76 78 (%)
ドイツ 68 76 95 100(%)
フランス 105 133 145 141(%)


 上記推移データから日本の特異性が顕在化します.日本の自給率は一直線に低下しているのに国内には危機感はほとんどないように思います.確かにテレビはグルメ番組が多く,食べ物のない時代など「想定外」です.メディアは国の危機感のなさを強調しますが,どっちもどっちのように思えます.何れにしてもスーパー,コンビニなどの店頭から現実の問題として「食品」が無くならない限り認識を変えることは難しいのかもしれません.

 ところで,一つの疑問が湧いてきます.飽食の時代と呼ばれる近年,食料の無駄も膨大なものになってきているように思います.実際に調べてみると,これは食品廃棄物として問題となっているようです.ちなみに食品廃棄物とは,食品の製造,流通,消費の各段階で生ずる動植物性の残渣類であり,具体的には,製造段階において生ずる加工残渣,流通段階で生ずる日切れの食品,消費段階で生ずる食べ残しなどがこれに該当するそうです.

 これら食品廃棄物の発生状況は,1996年の厚生省食品廃棄物資料によると食品製造業から生ずるもの(産業廃棄物)が1996年度で約340万t,食品流通業,外食産業などから生ずるもの(一般廃棄物)が600万t,また,この他に一般家庭から生ずるもの(一般廃棄物)が1,000万tと,併せて2,000万t程度が発生しているそうです.この数字が大きいのか小さいのか,私には皆目見当がつきません.

 別の統計では1960年の日本人一人/1日当りの食べ残しや食糧廃棄は196kcalで,1995年にはその3倍の596kcalにまで増えていることが示されています.この数字からは食品の無駄使いが明白です.まず,取組むべきは食品の無駄使いの削減と,このような取組みを通じた食料輸入の削減のように思います.

 そうは言っても,食料を輸入しないと貿易黒字が更に増大し,別の問題を引き起こしてしまうのかもしれません.ちなみに1995年に日本が輸入した農産物のうちアメリカからの輸入が全体の約38%を占めるそうです.どうも日本の食料供給の生命線は完全にアメリカ次第と言わざるを得ないようです.

 したがって,工業製品の輸出削減,食料品の輸入削減等のバランスに配慮しながら,かつての「拡大再生産」的な発想から,「均衡再生産」的な発想への転換が必要と思うのですが・・・.その一方でこれから工業化を進めようとしている国々とどうバランスを取るのか,本当に難しい問題と感じます.

 最近の不安定な国際情勢の根底には,世界レベルでのバランス確保の難しさがあるように思えてなりません.一つの価値観ではなく,バランス感覚を根底に保ち多様性のある価値観を相互に認め合うことのできる新しい世界観やパラダイムの構築が求められる時代に直面しているように思えます.

[文責:スリー・アール 菅井弘]

お願い:ご意見等がございましたら是非メールにてご連絡下さい.頂いたメールはサイトやメール配信記事に掲載することもありますので,あらかじめご了承ください.掲載時に匿名もしくはペンネームを希望の方はその旨を明記してください.